第39回 早わかりクラシック音楽講座 2010/7/11(Sun)

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番外編「ロックの歴史~プログレッシブ・ロック」

内容
≪ ロックの歴史~プログレッシブ・ロック ≫
第1部:20世紀の音楽(後期ロマン派から十二音技法、そして前衛音楽の時代へ)
第2部:ロック音楽の源流~ブリティッシュ・イノベイション
第 3部:1960年代後半ロック音楽の芸術化~プログレッシブ・ロックの代表作を聴く
-お茶とお菓子付-

第1部
□20世紀の音楽(後期ロマン派から十二音技法、そして前衛音楽の時代へ)
19世紀ロマン派の作曲家たちが抱えた「問題」。
それは先達ベートーヴェンの芸術をいかに超えるかだったのではないでしょうか。

彼らは皆、偉大なベートーヴェンの音楽に追いつけ追い越せと躍起になり、様々なアイデアや手法を取り入れながら作品を創造し、それらは音楽的音響的に進化、巨大化していきました。ワーグナーの楽劇をはじめ、ブルックナーやマーラーの交響曲は最たる例で、1908年に初演されたマーラーの第8交響曲などは上演に1000名のメンバーを必要とします。クラシック音楽の「形」が行き着くところまで行った、そんなような音楽なのです。

いわゆる後期ロマン派といわれる作風と現代音楽のはざまに位置するマーラーの音楽をとっかかりに今回の講座をスタートしました。まずは、1901年~2年にかけて作曲され、後に妻となるアルマ・シントラーへの想いが込められた、第4楽章に有名なアダージェットをもつ、交響曲第5番冒頭を。

①マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調~第1楽章冒頭
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

巨大で、うねりのある音楽を堪能しながら、時間の関係で冒頭のみを流し・・・、次に時代は飛んで、20世紀初頭に十二音技法という新しい方法を編み出した、アーノルト・シェーンベルクの弦楽三重奏曲(1946年)とロック誕生前夜の1950年(アメリカでロックンロールが産声をあげる頃)に発表されたジョン・ケージの4部の弦楽四重奏曲の冒頭を聴いてみました。
20世紀の音楽史的な意味で大事件である、十二音技法、いわゆる無調の世界は、一説によるとヒトラー率いるナチスへの反抗だったといわれています(ユダヤ人作曲家の音楽や調性のない現代音楽を退廃音楽として糾弾したナチスへの抵抗)。聴き込めばこういう音楽の素晴らしさも享受できるようになるのですが、一般大衆の目線からいうと難解さが鼻につきます。ましてや、1950年代から始まった「前衛音楽」などは気持ち良いものだとはとても思えません。

②シェーンベルク:弦楽三重奏曲(1946)
ラサール四重奏団

③ジョン・ケージ:4部の弦楽四重奏曲
ラサール四重奏団

◆ロックの源流
ブルースやゴスペルといったアメリカ南部の黒人音楽をルーツに持つロックンロール。リトル・リチャードやチャック・ベリーの名が有名です。

④チャック・ベリー:スウィート・リトル・シックスティーン

そして、彼らの影響を受け、ギターを持って黒人の模倣をする白人の若者が出てくるようになりました。最初の白人ロックンローラーであるエルヴィス・プレスリーを。

⑤エルヴィス・プレスリー:ハウンド・ドッグ

土臭いエネルギーに満ち溢れた、簡潔でストレートなロックンロールが聴こえます。プレスリーの音楽は当時の若者に熱狂的に迎えられ、そのスター性と暴力的性衝動的な音楽は一方で大人たちに煙たがられました(ロック=不良というレッテルが貼られたのもプレスリー以降でした)。

1960年代に入ると、プレスリーやチャック・ベリーなどに影響を受けたビートルズがアメリカに上陸し、爆発的な人気を得ました。当時の彼らのスタイルであるマッシュルーム・カットからロック=長髪というイメージが創り上げられたのもこの頃です。ビートルズの一番の特長は、自ら作詞&作曲するシンガーソングライターであったこと。

まずは、デビュー・アルバムから。

⑥ビートルズ:アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア

アメリカのミュージシャンたちはビートルズの人気に危機感を感じ、自分たちの音楽に磨きをかけようと躍起になります。1965年にビートルズが発表した「ラバーソウル」は全曲オリジナル曲という初のアルバムで、これを聴いたビーチボーイズのブライアン・ウィルソンは衝撃を受け、傑作「ペットサウンズ」を制作することになりました。さらに、その「ペットサウンズ」がこれまたビートルズの感性を刺激し、名盤「サージェント・ペパーズ」の誕生につながってゆくのです。当時の英米のミュージシャンたちはそうやってお互いに刺激を与え合い、それぞれの高みに登って行ったといえます。

⑦ビートルズ:ノーウェジアン・ウッド
⑧ビートルズ:イン・マイ・ライフ
⑨ビーチ・ボーイズ:素敵じゃないか、ゴッド・オンリー・ノウズ
⑩ビートルズ:サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド~ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ

写真 025

第2部
□ロック音楽の源流~ブリティッシュ・イノベイション
当時のアメリカにおいては、公民権運動とベトナム戦争などに反対する学生運動が活発化し、社会に問題意識を持ったミュージシャンたちが台頭、活躍していました。いわゆるプロテスト・シンガーと呼ばれるミュージシャンの中の代表格がボブ・ディランです。その社会風刺的な詩世界はビートルズのメンバーに衝撃を与えました。ディランから「君たちの音楽には主張がない」と直言されたジョン・レノンはショックを受け、その後ビートルズの音楽、詩の内容もどんどん深まって行きました。

⑪ボブ・ディラン:風に吹かれて

その結果、ディランもビートルズから影響を受けるようになります。アコースティック・ギターをエレキ・ギターに持ち替えて、いわゆるフォーク・ロックの世界に足を踏み入れるようになったのです。このことは、フォークの神様ディランを信奉していたファンの間で相当な物議を醸しました。

⑫ボブ・ディラン:ライク・ア・ローリング・ストーン(途中まで)

以上のように、1960年代は、アメリカ、イギリス双方の若いミュージシャンたちがお互いに刺激し合い、音楽的に成長していった時代といえるでしょう。

ディランやビートルズにより、ロックはより社会的メッセージ性を強くし、そこからヒッピーと言われる文化が生まれるようになりました。人間本来のあり方、生き方を模索する若者たちの登場です。ロック音楽のイメージにドラッグがついて回るようになったのもこの頃です。派手なギタープレイでギターを燃やすジミ・ヘンドリクス、全ての楽器を壊すザ・フー、ステージ上で下半身をさらすドアーズのジム・モリスンなど。多くのミュージシャンがドラッグや公然わいせつ罪で逮捕され、ロック=反権力という型が確立しました。

⑬ジミ・ヘンドリクス:パープル・ヘイズ
⑭ドアーズ:ジ・エンド(途中まで)
⑮レッド・ツェッペリン:ホール・ロッタ・ラブ

◆ウッドストック・フェスティバル
1969年8月15日~17日に亘って開催された史上最大の「愛と平和と自由」のロック・フェスティバルは、40万人もの観客を動員し、ロックが一大産業になることを企業や資本家に気づかせてしまいました。「ロックは反商業主義のはずだ」というオーディエンスに対し、出演者側は莫大なギャラを受け取るようになり、猛烈な摩擦を生むようになったのです。さらには、1970年~71年にかけ、「愛と平和と自由」の象徴的ヒーローであったジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリスンがドラッグ等の影響により相次いで死去し(いずれも27歳!)、「ラブ&ピース」という幻想は急激に冷めていきました。

写真 024

第3部
□1960年代後半ロック音楽の芸術化~プログレッシブ・ロックの代表作を聴く
1960年代にまかれた種が、様々な変化を繰り返し、70年代に多種多様の花を咲かせることになりました。一方の雄がハード・ロック。そして、もう一方の雄がプログレッシブ・ロックということになるでしょうか(異論はあるかもしれませんが)。

ロックが低俗なものから崇高な芸術へと姿を変えていきました。1969年、ビートルズの実質的ラスト・アルバムである「アビー・ロード」を全英1位の座から引き摺り下ろした革新的アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」(キング・クリムゾン)がリリースされ、世間をあっと驚かせます。それまでライブ活動を行っていなかったバンドが1枚のアルバムで一気にスターダムに躍り出たのです。

⑮キング・クリムゾン:クリムゾン・キングの宮殿~
「21世紀の精神異常者」
「風に語りて」
「エピタフ」

かつてLPのA面だった3曲を通しで聴きました。ある参加者の感想では、普遍的な光を放つビートルズに対し、どこか古臭く感じる印象をもったということでした。なるほど、70年代後半にパンク・ロックに席巻されるプログレのなれの果て、問題点をついた意見でした。
このアルバム1枚で、クリムゾンは分裂、ヴォーカルのグレッグ・レイクはナイスのキース・エマーソンらとスーパー・バンド、エマーソン、レイク&パーマーを結成し、よりクラシカルで繊細な音楽を世に問います。

⑯エマーソン・レイク&パーマー

アルバムの第1曲、バルトークの「アレグロ・バルバロ」を下敷きにした「バーバリアン」を聴いていただきました。

さらに、シンフォニック・ロックの傑作イエスの「危機」を。
⑰イエス:危機~危機

本当によくできた名曲です。メンバー各々の技術も素晴らしい(このアルバムを最後にドラマーのビル・ブラッフォードが第2期キング・クリムゾンに参画するため脱退することになります)。

本当はピンク・フロイドも採り上げたかったのですが、残念ながら時間の関係で今回はここでおしまい。いずれまた機会を持って聴いてみたいと思います。

ということで、次回第40回はイギリスの愛の音楽家エドワード・エルガーの登場です。乞うご期待!