第41回 早わかりクラシック音楽講座 2010/10/10(Sun)

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「Esoteric盤で聴くムラヴィンスキーのチャイコフスキー」

内容
≪ Esoteric盤で聴くムラヴィンスキーのチャイコフスキー ≫
第1部:2人の女性~アントニーナとの結婚と破局、フォン・メック夫人
第2部:円熟期の交響曲第5番
第3部:ムラヴィンスキーとレニングラード・フィル、死の影の垣間見える「悲愴」
-お茶とお菓子付-

第1部
□2人の女性~アントニーナとの結婚と破局、フォン・メック夫人
今回の講座では、これまでと趣向を新たにし、一人の指揮者にフォーカスを当て、彼の得意とする音楽、それも名盤といわれるものを採り上げました。
20世紀ソビエトを代表する孤高の天才エフゲニー・ムラヴィンスキーが1960年にヨーロッパを楽旅した際、そのあまりの「凄さ」に驚愕したDGのプロデューサーが急遽録音を決定したといわれる代物を、Esoteric社がSACD化した最高のリマスタリング盤で楽しみました。

とても50年前の録音とは思えないその生々しい響き。そしてレニングラード・フィルの鉄壁のアンサンブル、さらにはムラヴィンスキーの神々しいまでの音楽作りが手にとるように感じられる、見える、とどれをとっても最高と言える記録です。

まずは、チャイコフスキーの第4交響曲成立にまつわるエピソードをご紹介。1876年末のフォン・メック夫人との突然の出逢いがあり(といっても2人は生涯顔を合わせることはないのですが)、その後のパトロンとしての長いおつきあいが始まったちょうどその頃に生み出された作品で、しかも、アントニーナという女性と結婚をするもわずか80日で終止符を打ったといわれる泥沼状態の中で生み出された音楽なのですが、重く、悲愴な雰囲気を漂わせ、当時のチャイコフスキーの苦悩をまさに象徴している如くです。
チャイコフスキー自身がフォン・メック夫人に宛てて書いた手紙の中で、この曲の標題性について語る部分があり、それを参考にまずは実際にCDを聴いてみました。
ちなみに、第1楽章導入部の有名な管楽器のファンファーレは、「運命。我々の幸福への追求を実現させないあの不吉な力」と表現されています。ムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの演奏はまさにその表現通りの演奏となっています。

①交響曲第4番ヘ短調作品36
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1960)

第1楽章が多少冗長で、他とのバランスが悪く初演当時批評家や専門家などからは必ずしも好評とはいえない交響曲でしたが、第1楽章の苦悩こそが当時のチャイコフスキーの心情吐露であり、現実であることを考えると、ムラヴィンスキーの、幾分速めのテンポでありながら聴くものに直接的に語りかけるような演奏はこの音楽の真髄を理解するのに相応しいものだと思えました。

写真 002

第2部
□円熟期の交響曲第5番
休憩後、10年近くの時を経て生み出された第5交響曲について少しお話をしました。作曲家の壮年期、最も脂の乗った時期に書かれたこの傑作は、最初専門家の批評は良いものと言えず、チャイコフスキー自身もフォン・メック夫人宛ての手紙の中で「大袈裟に飾った色彩、不誠実」と自虐的に述べているほどです。しかしながら、この交響曲はその後、演奏会のたびごとに大好評となり、成功作として本人も評価するようになりました。

ムラヴィンスキーがもっとも得意とするこの交響曲をじっくりと聴きました。第7回の講座で採り上げた関係もあり、今回は第1楽章と第4楽章のみの試聴となりました。

②交響曲第5番ホ短調作品64~第1楽章&第4楽章
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1960)

ムラヴィンスキーの演奏する第5交響曲は不滅です。指揮者本人が繰り返し舞台にかけただけあり、何度聴いても新しい発見のある音楽です。第4交響曲に関しては「よくわからない」と首をかしげていた参加者もこのフィナーレを聴いた後は思わず拍手をされていました。

写真 001

第3部
□ムラヴィンスキーとレニングラード・フィル、死の影の垣間見える「悲愴」
今回採り上げたムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの録音にまつわる話のほか、「悲愴」交響曲初演後わずか9日後に急死したチャイコフスキーの死の真相などについても議論しながら講座を進めました。

③交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」~第1楽章&第4楽章
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1960)

同じく第22回の講座で採り上げたこともあり、こちらも第1楽章と第4楽章のみの試聴です。第5交響曲のフィナーレとの相違に参加者は吃驚していました。この祈りに満ちた音楽にほとんど初めて聴くという方々も感動されていました。

ちなみに、今回のEsoteric盤を聴いてみて、あらためて感じさせられたのがホールの違いでしょうか。第4番はロンドンのウェンブリー・タウンホール、第5,6番がウィーンのムジークフェラインザールでの録音ということで、音響効果がまったく違います。会場の重要性、ホールがいかに演奏に影響を与えるかまで考えさせられました。

最後に・・・。
諦めと悲しみと死と・・・、チャイコフスキーの音楽の陰にはそういったネガティブな感情が渦巻くものが多いように言われますが、一方、非常にメルヘンチックで明るい、希望に満ちた音楽を書くことも得意としていました。
時間も少しありましたので、入門者にもわかりやすい、よく知っているチャイコフスキーの音楽を抜粋で披露いたしました。

まずは、「悲愴」交響曲とほぼ同時期に書かれたバレエ音楽「くるみ割り人形」から。

④バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71~序曲、行進曲、花のワルツ
サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

そして、お馴染み「白鳥の湖」から。

⑤バレエ音楽「白鳥の湖」作品20~情景
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

さらに、冒頭序奏部が有名なピアノ協奏曲。

⑥ピアノ協奏曲第1番変ロ短調作品23~第1楽章冒頭
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

さらにさらに、

⑦弦楽セレナーデハ長調作品48~第1楽章冒頭
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団

数々の有名作品を抜粋し、堪能していただきました。あっという間の3時間。
次回第42回はベートーヴェンの交響曲、聴き比べです。乞うご期待!