特別講座「早わかりクラシック音楽講座」(番外編No.1) 2009/8/4(Tue)

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「クラシック音楽は難しくない!岡本流クラシック音楽の楽しみ方」

内容
≪ クラシック音楽は難しくない!岡本流クラシック音楽の楽しみ方 ≫
第1部:ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
第2部:モーツァルト「最晩年貧困のどん底で生み出された三大交響曲について」を中心に
第3部:グレゴリオ聖歌からヴェーベルンまで~ラヴェルの「ボレロ」

□ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
①モーツァルト:ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545~第1楽章(当日の演奏を試聴(約33秒))
②ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(当日の演奏を試聴(約35秒))

本日の1曲目は、モーツァルトが貧困の極致に喘いでいた晩年に生み出された「簡潔にして愛らしい」K.545のソナタから第1楽章を弾いていただきました。最悪の状態にいたようにはとても思えない明るい曲想をもちますが、よくよく聴いてみると、その明るさの中にも悲しみや怒りなどあらゆる感情が表現されているようにも聴こえます。調和のとれた形式の中で人間感情、あるいは宇宙の全てを包括したような音楽を創出できたモーツァルトはやはり音楽史上屈指の「天才」だと思います。そして2曲目は、愛知とし子お得意の「亡き王女のためのパヴァーヌ」です。作曲者本人は駄作としてみなしていた作品ですが、10数年後自身により管弦楽化されているように何とも穏かで愁いを帯びた旋律が心に優しい音楽であり、ラヴェルの書いたピアノ曲の中でも最も大衆に受け容れられやすい名作だと思います。彼は生涯女っ気がなかったといわれていますが、信じられません。

写真 001

第2部
□モーツァルト「最晩年貧困のどん底で生み出された三大交響曲」を中心に
今回の特別講座は要望により初めて平日の夜の開催ということになりました。少人数での開催ということもあり、参加者の様子をみながら臨機応変に流れを変えながら合計2時間を楽しんでいただきました。
まずは、経済的貧困の真っ只中にいた最晩年のモーツァルトに注目。1781年、ザルツブルク大司教との決裂によりウィーンへの移住が決定したモーツァルトは父親や大司教からの精神的圧迫から解放され、それまで以上に輝きを放つ傑作群を発表し続けます。例えば、1784年には年10回ほどの予約演奏会を開始し、翌85年には何と1ヶ月半に25回もの予約演奏会を開き、人生のピークを迎えます。第20番以降のピアノ協奏曲が生み出されるのもこの時期です。そんな中、1787年5月に父レオポルトが亡くなると、31歳のアマデウスは名実ともに呪縛から完全解放され、作品が一気に大衆が理解できないところまで飛躍します(現代の我々の耳からすると受け容れがたいとは思えないのですが、当時の人々からするとレベルが高すぎたのかもしれません)。以降、残念なことに予約演奏会の人気が翳りを見せ始め、貧困と家族崩壊というどん底にモーツァルトは突き落とされることになります。
第1部の生演奏で採り上げたK.545はまさにそういう時期(1788年夏)に書かれた音楽なのです。そこで、当時の彼の心境、状況を振り返るという意味合いを込め、まずは、1787年10月に作曲されたモーツァルトの音楽の中で最も有名なものを聴いていただきました。

①モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジークK.525~第1楽章
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団

均整の取れた形式の中に、わかりやすい旋律が聴かれる音楽。愉悦の中にも悲しみすら感じさせる傑作をブルーノ・ワルターの名盤により堪能しました。

そして、1788年6月~8月の2ヶ月弱で書き上げられた通称「三大交響曲」の話題に。おそらく予約演奏会を開催し、資金調達の目的で書かれたであろう性格の異なるこの傑作群をわずか2ヶ月で作り上げてしまうとは・・・。お金がなくて必死だったということもあるでしょうが(笑)、それにしても人間技とは思えない高みに達しております。
当時、イギリスでは音楽市場が市民層に急速に広がっており、同時期のハイドンはロンドンに渡り、豊かな晩年を送っています。もちろんモーツァルトにも同じような誘いは来たようですが、家庭の事情により渡航を諦めざるを得ない状況だったのです。ひょっとするとロンドンでならこの三大交響曲は受け容れられていたかもしれません。
時間の関係で3つの交響曲の第1楽章だけを順番に聴きました。

②モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調K.543~第1楽章
③モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550~第1楽章
④モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551~第1楽章
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団

もう何百回と聴いている音楽ですが、聴くたびに新鮮な感動を味わえる音楽です。クラシック音楽入門者にはまずモーツァルトの音楽から入っていただくのが一番だと僕は思います。

写真 003

第3部
□グレゴリオ聖歌からヴェーベルンまで~ラヴェルの「ボレロ」
バランスが取れた響き、そしてソナタ形式という整然とした構成の中に「才能」を競い合った古典派時代。ある意味その完成形が先述のモーツァルト「三大交響曲」だと思うのですが、ここで西洋クラシック音楽の歴史を簡単に振り返ってみました。

まずはモノフォニー(単旋律)の代表である10世紀頃のグレゴリオ聖歌から。
⑤グレゴリオ聖歌「羊飼いらよ、何を見たるか」
聖モーリス及び聖モール修道院ベネディクト派修道士聖歌隊

単旋律からポリフォニー(複数の旋律をより複雑に組み合わせる)の世界へ。
ルネサンス時代、15世紀後半~16世紀前半を生きたジョスカン・デ・プレの音楽を。
⑥ジョスカン・デ・プレ:アヴェ・マリア抜粋
ヒリヤード・アンサンブル

さらに、時代はバロック時代へと(通奏低音と単旋律+和音の音楽)
⑦J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050~第1楽章抜粋
アンドリュー・パロット指揮タヴァナー・プレイヤーズ

一人の通奏低音奏者の和音では不十分になり古典派では弦楽四重奏、交響曲編成によるバランスの取れた響きへ。その後、自由な感情表現などの要求から徐々に厳格な音楽構造が用いられなくなり、19世紀ロマン派では自由な音楽形式へ(オーケストラの大型化、楽曲の長大化)。19世紀末に書かれた音楽から、マーラーのものを。オーケストラの極限までを追求した巨大な音楽。

⑧マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」~第5楽章終結部
バーバラ・ヘンドリクス(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾソプラノ)
ウェストミンスター合唱団
レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団

20世紀に入り、ロマン的なしつこい感情表現にあきたのか(笑)、シェーンベルクの無調音楽など制約のない音楽が生み出されるようになります。中でも小規模で簡素な響きを求めた代表格であるアントン・ヴェーベルンの音楽を。
⑨ヴェーベルン:管弦楽のための6つの小品作品6~第1曲
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

以上、手短に音楽の発展、進化を説明しながら実際に音楽を聴きつつ後半の講義を進めました。
最後に、モーリス・ラヴェルが残した音楽の中で最も有名になった実験作「ボレロ」を。
ラヴェルは生涯異性とも同性とも恋愛沙汰がなかったといわれていますが、実際のところはどうなのでしょうか?恋心なくしてああいう音楽は書けないだろうとも思うのです。ただ、相当に用心深かったのでしょう、証拠が一切残っていないところが為す術なく何とも残念でなりません。

写真 004

ちなみに、1928年に発表された「ボレロ」はラヴェル自身も録音を残しており、意外にあっさりとしながらも素晴らしい演奏を繰り広げているのがわかります。
作曲者自作自演盤とアンドレ・クリュイタンスによる名演奏を聴き比べいたしました。
素晴らしいひと時でした。