徳川眞弓の「ポートレート」を聴く

独墺系音楽一辺倒の、狭い視野で音楽を聴いてきた僕に衝撃を与えてくれる1枚。
西洋古典音楽の王道はドイツの音楽でもオーストリアの音楽でも、はたまたイタリアの音楽でもないんですよといわんばかりの可憐で切なくて、そして時に神々しいアルバム。
徳川眞弓のファースト・ソロ・アルバム「ポートレート」を聴くや僕が感じたのはそんなこと。
いわゆる辺境の、言ってみればあの当時の片田舎の所々でこんなにも素敵な音楽たちが生まれていたのか。いや、これは作曲家たちが成功を夢見て都会に出、そしてある程度の地位を築くやどうにも祖国を懐かしみ、生まれた地に思いを馳せ、書き記した音の調べたちだったんだ・・・。

プーランクが囁きかける。スークが愛らしく語る。ラヴェルだって夢見ていたのだ。
そして、わが日本の山田耕筰先生も西洋音楽の様式を借りて神出国の心を詠みあげる。若い頃から繰り返し聴いた(耳にタコができるほど聴いた)ショパンのノクターンがこれほどまでに哀しく響くのは何故か?

・プーランク:即興曲第15番ハ短調「エディット・ピアフへのオマージュ」
・プーランク:ノクチュルヌ第1番ハ長調
・ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
・リスト:「エステ荘の噴水」~巡礼の年第3年S.163第4曲
・アルベニス:パヴァーナ・カプリチオ作品12
・スーク:「愛の歌」~6つのピアノ小品作品7第1番
・バルトーク:ルーマニア民俗舞曲Sz.56
・山田耕筰:ピアノのための「からたちの花」
・ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調(遺作)
・ショパン:練習曲作品10第3番ホ長調「別れの曲」
・ショパン:バラード第1番ト短調作品23
・ラフマニノフ:ヴォカリーズ~14の歌曲集作品34第14番(コチシュ編曲ピアノ独奏版)
徳川眞弓(ピアノ)(2010.6.23&24録音)

先日のリサイタルでも感じたことだが、徳川さんの決して出しゃばらない内側に秘められた思いが隅々まで行きわたるピアノ・マジックの粋がここにある。おそらくそういった感情(=内に秘めたもの)を徳川さん自身は「ノスタルジー」と表現されているのだと思うが、各々の作曲家の内側に共通にある「秘密めいたもの」が、一切のひねりなく直接に心に届く。
そう、ピアニスト自身がこれらの作曲家に心底共感しているんだということが手に取るようにわかるのだ。
ちなみに、僕はこの3日のうちでもう5,6回聴いただろうか・・・(笑)。
最後のゾルタン・コチシュの編曲によるヴォカリーズは何だかとても難しそうだが、難なく弾かれている(ように聴こえる)。満を持して録音されたのであろう、とても余裕の感じられるアルバム。


4 COMMENTS

violet

德川眞弓さんのリサイタルのコメントを頷きながら感銘して拝見いたしました。
そしてこのポートレイトについても、音楽に精通している方の表現方法って本当に素晴らしいな。。。
とまたまた頷きながら、尊敬の念を込めて拝見いたしました。
ポートレイト。。。私は毎日のように、聴いています。
心の奥底にある魂を揺さぶられるような、それでいて心が安住できるような不思議な感覚♪
德川眞弓さんの真面目で清らかで、でも芯の強さを感じるお人柄にもあこがれています。
8月18日の公演についての記事も楽しみにしていますね、

返信する
雅之

こんばんは。

徳川眞弓のファースト・ソロ・アルバム、とても良さそうですね。聴いてみたいです。

山田耕筰:ピアノのための「からたちの花」は特に・・・。

交響曲ヘ長調「かちどきと平和」とか、序曲ニ長調
http://www.youtube.com/watch?v=MWtK6HvEjt0
とか、山田にはいっぱい良い曲があるので、日本のオケも、もっと採り上げればよいのにとずっと思っています。

日本の演奏家は自国のいい曲を、どんどん紹介して欲しいです。

徳川さんの名盤には、あえて、誰かさんのお好きな、あのオピッツの盤で対抗しておきましょう。友人の家で聴かせてもらったのですが、あれも本当に良い企画で、心から堪能しました。

諸井三郎:ピアノ・ソナタ第2番、武満徹:雨の樹素描、池辺晋一郎:大地は蒼い一個のオレンジのような、藤家溪子:水辺の組曲 オピッツ(ピアノ)
http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E6%9B%B2-Japanese-Piano-Works-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E6%9B%B8/dp/B005A0FDGG/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1342702756&sr=1-1

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>山田にはいっぱい良い曲があるので、日本のオケも、もっと採り上げればよいのに
>日本の演奏家は自国のいい曲を、どんどん紹介して欲しいです。

同感です。
震災の前日に聴いていた山田耕筰のピアノ曲集などをあらためて聴いても同ことを考えます。
http://classic.opus-3.net/blog/?p=3478

>あのオピッツの盤で対抗

ああ、僕も気になっておりましたが、未だ聴いておりません。
良さそうですよね。廃盤にならないうちに聴いてみようと思います。

返信する
岡本 浩和

>violet様

こんばんは。コメントの承認が遅くなり申し訳ございません。
本当に久しぶりに良いアルバムに出逢えたなと、率直な感想を書かせていただきました。
そうですか、毎日聴かれているんですね。確かにそうさせてくれるCDだと思います。

>心の奥底にある魂を揺さぶられるような、それでいて心が安住できるような不思議な感覚

言い得て妙です。
先日のリサイタルの時にご挨拶をさせていただいた程度で人柄まではわかりませんが、少なくともピアノにすべてが表れていますよね。

8/18の公演については予告として以下のブログにとりあえず書きました。
http://hirokazuokamoto.blog133.fc2.com/blog-entry-14.html

ご都合つくようでしたらぜひ足をお運びください。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む