神秘

1ヶ月前のモルゴーア・カルテットのコンサートは実にすごかった。
ショスタコーヴィチが終わるや、フロイドの「太陽讃歌」によってプログレ大会の狼煙が上がった。ラストの「スターレス」を経てアンコールの「宮殿」までホール内は異常に盛り上がった。聞くところによると、終演後のサイン会目当てに会場では180枚近くのCDが売れたのだと。これまた尋常でない。それくらいにモルゴーアの手腕は素晴らしかったということだ。

ロンドン・オリンピック開催中ということでもないが、仕事でドビュッシーやショパンを聴く以外久しぶりにブリティッシュ・ロック漬け。今夜はそのフロイドの”Set The Controls For The Heart Of The Sun”(太陽讃歌)が収録されている「神秘」を。
まだサイケデリック志向だった頃の、そしてシド・バレットが在籍した最後のアルバム(レコーディングの途中で彼は脱退しているけれど)。ライブ用メンバーとしてギルモアも加入し、「太陽讃歌」では5人が演奏しているらしい。ちなみに、タイトル曲“A Saucerful Of Secrets”(神秘)は後のフロイドらしいプログレッシブなインストゥルメンタル・ナンバー(かっこいい!!)。できあがった録音を聴いて新参者だったギルモアは「これは曲なのか?!」と驚いたという。

Pink Floyd:a saucerful of secrets

Personnel
Syd Barrett (guitar, vocals)
Roger Waters (bass, vocals)
Richard Wright (keyboards, vocals)
Nick Mason (percussion, drums)
David Gilmour (guitar, vocals)

このアルバムがリリースされる直前、ピンク・フロイドは混乱状態にあった。
当時を回想してのニック・メイスンの言葉。
「あるナンバーを演奏している間中、シドはギターの弦を叩きながら、ギターのチューニングをしていた。まぁ、超モダンと言えるかもしれないけど。(笑)フォローしたり、一緒に演奏するのはとても難しい。他にもシドが一人だけ立って演奏し、僕たちはまごついてしまう時があった。そんな時、誰かほかの人が必要だと感じたし、また何か助けてもらいたいと思った」

あるいはデイヴ・ギルモアの回想。
「当時、シドの考え方をわかろうとするのは全く不可能だった。それに彼らのコンサートを2,3回見ていたものの、どうやって彼らがああいう風にやれるのか全くわからなかった。シドのやっていることがグループとかけ離れているのははっきりしてたし、グループは完全に足踏み状態だった」

リック・ライト作”See-Saw”の牧歌的な調べが意外に好き。
ラストのシド・バレット作”Jugband Blues”は名曲だけれど、僕の感覚でもアルバム中異質。これを聴くとシド・バレットが抜けたお蔭で以降のフロイドの方向性が決定づけられ、「原子心母」「おせっかい」も、そして「狂気」も世に出ることになったということが理解できる。何とも何がどうなってどうなるのか、歴史というのはわからないもの。
とはいえ、こういう人生の分岐点で主人公が別の道を選んでいたら(フロイドの場合はシドが病気にならず辞めずに残っていたら)どうなっていたのかというのはナンセンスな問い。どっちを選んでもフロイドはフロイドだったろうから。その証拠に、シドがグループを去った後初めてのヨーロッパ公演で、初期のフロイド・ファンたちは、完全にグループに背を向けたそう(シド・バレットというのは相当なカリスマ性のある人間だったよう)。

ピンク・フロイドに限らず、人気バンドの歴史をひもとくのは興味深い・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

ロック・バンドと、クラシックの、たとえば常設の弦楽四重奏団とは何が違うかというと、結局、作曲が有るか無いか、に行き着くんですよね。

早い話が、仮に岡本さんが楽器かボーカルが卓越しているとして、岡本さん率いる四重奏団で私が一緒にクラシックの名曲の合奏をすることは、たとえ岡本さんによる変な楽譜解釈を強要されるにしても、新鮮な発見が多くとても楽しいでしょう。

しかし岡本さんの世界観で岡本さんが作曲した曲ばかりを、私が四六時中付き合い続け、練習し、他のメンバーと共に一緒に弾かなければならないとなると、洗脳されている内はいいでしょうが、岡本さんのマインド・コントロールから醒めた時点で即、拒絶反応で嫌になるでしょうね(笑)。反撥しなければ、こっちが発狂しそうになります(笑)。わざと岡本さんの指示に逆らうのは、自分の健康を保つためにも当然な成り行きなのです(笑)。

クラシックは、作曲と演奏が分業体制であることが、面白くも詰まらなくもありますよね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

>結局、作曲が有るか無いか、に行き着くんですよね。

なるほど、確かにそういうことでしょうね。

>指示に逆らうのは、自分の健康を保つためにも当然な成り行き

「指示」じゃないですが、このブログ上での長年のやり取りは健康的ですね(笑)

>クラシックは、作曲と演奏が分業体制であることが、面白くも詰まらなくもあります

同感です。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む