カザルス・トリオのシューベルト!

シューベルトの音楽は「歌」に溢れると昨日書いた
それは、19世紀後半や20世紀前半までの浪漫的解釈に著しい(余談だが、「浪漫」という当て字は夏目漱石が考案したのだとか)。高校生の時、音楽好きの友人からフルトヴェングラーやワルターやトスカニーニという往年の名指揮者のレコードを聴くことを強く薦められ、そういう古い音盤を聴くうちにあっという間に古き良き時代の演奏家の虜になってしまっていた。いろいろとレコードを集めたり、友人と貸し借りしたり・・・。そして、その中にカザルス・トリオが演奏するベートーヴェンの「大公」トリオの東芝エンジェル盤のGRシリーズ(懐かしい!)が含まれていた。当時の録音としては画期的に聴きやすく、しかも魂のこもった名演奏に身も心も蕩けるようで毎日のように繰り返し聴いたことを思い出す。
その時のカップリングが何だったかはあまり記憶にないが(多分CDと同じだろう)、後年になって仕入れたCDのそれはシューベルトの最晩年の変ロ長調の三重奏曲だった。それこそベートーヴェンの「大公」トリオを意識して書かれたようなとても充実した内容で、しかもシューベルトらしい美しい旋律の宝庫で、大人になってからは「大公」よりもどちらかというとシューベルトの方に愛着を感じ、頻繁に聴いた。

久しぶりに耳にして、あの頃のことを思い出し、懐かしさを覚えるとともに、やっぱりこの変ロ長調のトリオは大傑作だと再認識する。

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調D898
カザルス三重奏団
アルフレッド・コルトー(ピアノ)
ジャック・ティボー(ヴァイオリン)
パブロ・カザルス(チェロ)(1926.7録音)

記念すべきカザルス・トリオの第1作。何と86年前のレコーディング!
そして何と生命力と躍動感に満ちた第1楽章第1主題か!
ティボーのポルタメントの効いたヴァイオリンの音色によってシューベルトの「歌」は羽が生えたかのようにひと際飛翔する。コルトーのピアノもカザルスのチェロももちろん素敵だが、ここではティボーが主役だ。第2楽章の甘い旋律は真にシューベルトらしい。いつまでもそこに浸っていたい・・・。
第3楽章スケルツォではコルトーのピアノが独壇場。この短い音楽の底なしの明るさは、晩年のシューベルトの生への希望を表すかのよう。そしてフィナーレは3者の三つ巴。

ちなみに、このトリオが1836年に作品99(遺作)として出版された時、ロベルト・シューマンは熱烈な賛美の言葉を寄せたという。
「シューベルトの三重奏曲を一目みると、哀れな人間仲間の営みなどは霧のように消え去り、世界は再び新鮮な輝きをとりもどす」
第1楽章は、優美で親しみ深い妙齢の乙女。第2楽章は人間の美しい感情が波のように上下する快い夢。第3楽章はスケルツォ、第4楽章は何とも言えない、と。
シューマンらしい何とも粋な文学的表現・・・。


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