モーツァルトの幻想曲K.475

あ、見つけたって感じ。
あくまで独断的な妄想だけれど、ベートーヴェンが第5交響曲を創作するにおいておそらく参考に、いや楽想を拝借したのはここからじゃなかろうかと。著作権というものがなかった当時、他人の創作した旋律などを使用して新しい音楽を創るのなんていうのは日常茶飯事で、実際、ベートーヴェンが「エロイカ」シンフォニーにモーツァルトの歌劇「バスティアンとバスティエンヌ」序曲から旋律を借りて主題を作っているというのは有名な話(もう何度も書いていることだがモーツァルトが「魔笛」にクレメンティのソナタの主題を借りているというのも有名)。そういう背景からも勝手に次のような想像が働いた。

偶々リリー・クラウスの弾くモーツァルト全集(旧い方)からK.333他が収められた1枚を繰り返し聴いていて、「発見」したのである(果たしてこれは他でも誰かが書いたりしていることかもしれないけれど、僕の中では妄想と言いつつも妙に確信があるから不思議なものだ)。もちろんまったく見当違いの可能性も十分あるので戯言として読んでもらえればそれでいい。それは1785年の5月にモーツァルトが書いた幻想曲ハ短調K.475。
冒頭からいかにもモーツァルトらしくない重く哲学的な音調に包まれるが、このベートーヴェン風の音楽はことによるとモーツァルトの鍵盤作品の中でも実に出色のものではないかと再確認。雰囲気ももちろんそうなのだけれど、決定的なのは第4部後半の例の「運命」動機らしきメロディが響く箇所。ここで僕の直感が働いた。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調K.333
・ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545
・幻想曲ハ短調K.396
・サルティの主題による8つの変奏曲イ長調K.460
・幻想曲ハ短調K.475
・ロンドイ短調K.511
リリー・クラウス(ピアノ)

1785年というとモーツァルトの人生絶頂期。こういう音楽を当時の聴衆が理解したかどうかはわからないけれど、とにかく深い。ゆらゆらした何とも言えない雰囲気と地に足の着いた確固たる歩みとの対比。いよいよモーツァルトが前人未到の芸術的境地に至らんとするその入口にあるかのような傑作。

ところで、リリー・クラウスの仕事。
かれこれ20数年前にWAVEと東芝EMIがコラボしてリリースしたアナログ時代から有名な5枚セットものだけれど、当時モノラルながらその生々しい音に痺れた。K.333などは屈指の名演奏だと思うし(可憐で愉悦的で言うことなし)、通俗的なK.545の堂々たる愛らしさは他では絶対に聴けない。しかしながら白眉はやっぱりK.475!これは空前絶後のマスターピースだ。


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