アラン追悼:フランクのオルガン作品全集

春が蠢く。日中の陽気はすこぶる気持ちが良かった。
それでも春先というのは亡くなる人が多い。明日から弥生に入るといえどもまだまだ寒さ続く時節柄、去年から来年へ、昨日から明日へ・・・、またもや「転換点」をまたぐ思いに駆られた。
そういえば、数年前に亡くなった哲学者の池田晶子氏がエッセー中で「死」についてとてもわかりやすく論じられているのを読んで膝を打った。そもそも「死」というのは人間のみが持つ「観念」であるということが大前提。ゆえに、例えば「自殺」なんていうのも人間以外の生物にはない行為だという。あるいは、大正、昭和の時代に文士の間で流行(?)した情死などもまったく愚にもつかない方法だと氏は一刀両断する。人が他人と一緒に死ぬなんてことは不可能なのに、「その時」は一緒に死ねると考えてそういう行為に及ぶのだろうが、馬鹿ではないかと。真に想像力がどうして働かなかったのかと疑問を投げかける。
確かに・・・。

マリー=クレール・アラン氏が亡くなった。享年86。
僕は残念ながら実演に触れることができなかった。というより、オルガンのコンサート、あるいはリサイタルに行こうとは少なくとも若い頃は思わなかったというのがそもそもの原因(行こうと思えばチャンスはいくらでもあった)。よって「残念ながら」という前置きは少しおかしい。ただし、「今」は違う。やっぱりこの不世出のオルガニストの演奏はこの目で実際に見、耳で聴いておくべきだったと後悔の念が絶えない、そういうことである。

録音で聴く限り、彼女の演奏は音楽だけしか感じさせない「客観的」なものだ。オルガンそのものの性能までは詳しくないので、オルガニストの思考や技術的なことは云々できない。それでも整然として静かで、感情的なものが一切排除された墨色の音色というのが僕の彼女の演奏に対するイメージ。そのことは40年近く前に収録されたセザール・フランクの全集を聴いてみても変わらない。

フランク:
大オルガンのための6つの小品(1860-62)から
・幻想曲ハ長調作品16
・交響的大作品作品17
・前奏曲、フーガと変奏曲作品18
・祈り作品20
3つの小品から(1878)
・幻想曲イ長調
大オルガンのための6つの小品(1860-62)から
・パストラールホ長調作品19
・終曲変ロ長調作品21
3つの小品から(1878)
・カンタービレロ長調
・英雄的小品ロ短調
3つのコラールから(1890)
・第1番ホ長調
・第2番ロ短調
・第3番イ短調
マリー=クレール・アラン(オルガン)(1976.5録音)

フランク死の年の「3つのコラール」が素晴らしい。ここにはブルックナーも木霊する。いや、というよりセザール・フランク一世一代の崇高な音楽がある。
考えてみた。ブルックナーとフランクとは相似形ではないかと。各々敬虔なカトリック教徒であったこと、そしてワーグナーに心酔したことなど。
とはいえ、決定的に異なる側面がある。ブルックナーは真の意味で「俗人」だった。プライベートにおいても妄想の塊(笑)。意志が自分に向く(そのことは同じ方法論で交響曲をいくつも書いたことに証明される)。一方のフランクは利他思考。謙虚でかつお人好し。そんな人が悪い音楽を書くはずもない。どんなに音楽が暗いと言われても・・・、そこには「真実」がある。

今宵、数ヶ月ぶりの「クラヲタ」怪(あえて「怪」とする・・・笑)。盛り上がった。様々収穫あり。近いうちに書こうと思う。


2 COMMENTS

neoros2019

岡本さん
わたしのバッハ体験は、小学生の頃に聴いたトッカータとフーガのオルガン演奏だったわけですが、ちゃんとしたLPを一枚買おうと思って偶然選んだのが、リヒターやヴァルヒャではなくエラートのマリー・クレール・アランのバッハ名演集という多分63年ごろの録音のやつでした
この盤でのパッサカリア&フーガとの出会いは本当に衝撃的でした
アランも70年後半だろうか再録したようですが、この63年収録のパッサカリアには到底及びません
今でも時間を置きながら反復してアイポッドで聴いているのは英国HYPERIONのピアノトランスクリプションで、このパッサカリア&フーガに打ちのめされ続けています

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岡本 浩和

>neoros2019様
なるほど、最初のバッハがアランでしたか!
とはいえ、僕自身の聴き込みが足りないので、63年盤と70年代盤との比較を云々できません。
ハイペリオンのピアノ・トランスクリプションも残念なが未聴です。興味深いです。

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