Pete Sinfield:Still

「自律」の第一歩は、何事もまず単独でやってみるということである。当然だけれど、単独でやるとなると「不安」はつきもの。もちろん何の保証もない。しかしながら、「守るべきもの」など本当は何もないのである。むしろ、周囲のサポートが必ずある。物理的にも精神的にも。

キング・クリムゾンの作詞担当であったピート・シンフィールドには唯一のアルバムがある。1973年、EL&Pの設立したマンティコア・レーベルからリリースされた実に隠れた名品。一貫して音調は静謐。でありながら、様々なイディオムを試す、非常に挑戦的な楽曲群。彼は語る。

ひとつ気がついたのは、ソロ・アルバムを作ると、メディアで「元キング・クリムゾン」とは報じられなくなって、「ピート・シンフィールド」になるということ。僕は、自分に対する信念があった。やってみるだけの価値はあったし、誰も僕を止めなかった。グレッグやマンティコアのその他のスタッフ全員にやるよう促されたんだ。

そう、自身を看板にする勇気。いや以前に内から湧き出づる「信念」。やってみなきゃわからない。

僕が高揚感のあるアルバムにしたかったのはロバートがやっていたこと、そして彼が進んでいた方向性とは対照的なものを作りたかったからということがひとつにはあったんだ。

ロバート・フリップの強力なリーダーシップの下、一致団結したかのように見えたバンドは結局崩壊に向かって進んでいった。やはり、フリップ自身が述べるように、オリジナル・クリムゾンにリーダーはいなかったということだ。クリムゾンというバンドは特定の誰かにのみ力点が置かれると巧く機能しなくなる、そんな集団だった・・・。革新的なことをやってのける、その意味でフリップもシンフィールドも基本軸は同じだったのだろう(つまり志は同じだったということ)。でも、その目的に辿り着くための方法論が違っていた。
シンフィールドは当初は気づかなかった。でも、あるとき悟った。思考や感覚が追いつかないと。言いなりになってはいかんと。

Pete Sinfield:Still Expanded Edition

Personnel
Pete Sinfield (12 strings acoustic guitar, synthesizer & vocals)
Richard Brunton (acoustic & electric guitars)
Brian Cole (pedal steel guitar)
Greg Lake (electric guitar, backing vocal, joint lead vocal)
Snuffy (electric guitar)
Mel Collins (alto, tenor & baritone saxes, flute, alto flute & bass flute & celeste)
Don Honeywill (baritone sax)
Chris Pyne (trombone)
Greg Bowden (trumpet)
Stan Roderick (trumpet)
Robin Miller (cor anglais)
Tim Hinkley (electric piano)
Phil Jump (piano, electric piano,Hammond organ, woolworth’s organ, freeman symphoniser & glockenspiel)
Keith Tippet (piano)
Boz (bass guitar)
Steve Dolan (bass & bass guitar)
John Wetton (bass guitar & fuzz bass)
Min (drums & percussion)
Ian Wallace (drums & snare drum)
Brian Flowers (tea, sympathy & equipment)

多数のクリムゾン・ファミリーを含む錚々たるメンバー!!おそらくピート・シンフィールドにとってキング・クリムゾンでの活動の数年間は、自分というブランドを確固としたものにするための(いや、確認するための)大いなる準備時間だった。「できる」とある時わかったのだ。

初期クリムゾンの抒情性の源泉はイアン・マクドナルドであり、シンフィールドだった。第1曲”The Song of the Sea Goat”の夢見るような歌唱と詩と。グレッグ・レイクがヴォーカルで共演するアルバム・タイトル曲の荘重な展開!!真に忘れ難い瞬間。

なぜ彼は1枚のアルバムしか残さなかったのか?想像するに詩と音楽とをフィフティ・フィフティーで融合させることを試みたかったのでは?しかし、残念ながら音楽の方が優った(ワーグナーが言葉より音楽を優位に置いたように)。確かに真相はわからないけれど、「言葉の壁」というのは大きかった。
後年、シンフィールドは語る。
“Still”の作業は、僕が生れてこのかた取り組んだもののうちでおそらく最も難しかったものだろう。このアルバムのレコーディングがどれだけ大変だったか、いくら強調しても足りないよ。喜びもありはしたが、圧倒的に全てが辛い作業だった。「ありがたい、やっと終わった!」と思える時がやって来た。その後、ソロ・アーティストでなくなるのはさほど難しいことではなかった。

やっぱり彼は詩人・・・。

※文中太字は、シド・スミス氏(翻訳:川原真理子)によるライナーノーツから抜粋。

 

 


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