グリモー&ネルソンス指揮バーミンガム市交響楽団日本公演

grimaud_nelsons_cbso_20131119世間はポール・マッカートニーの11年ぶりの来日公演で盛り上がっている。これまで以上にビートルズ・ソングを披露するという舞台に、ビートルズによりポピュラー音楽の扉を開かれた僕が興味をもたないはずがない。でも、残念ながら会場が東京ドーム。あそこは音楽を聴く場所ではない。

今宵、初台でエレーヌ・グリモーを聴いた。ブラームスに熱烈なる愛を送る彼女のブラームス第1協奏曲。予想通り素晴らしかった。てっきり僕は「彼女は天からインスピレーションを得て、啓示を開くタイプのピアニスト」だと思っていたが、実演を聴いて思ったのは、むしろ「大地に深く根ざして力のある音楽を生み出すピアニスト」という表現がぴったりだということ。あのブラームスの難曲を男性勝りのエネルギーと類稀なテクニックで、ほとんどミスひとつなく演奏する様はミューズというより・・・。ともかくあの可憐な容姿や仕草からは想像もできない音楽が奏でられる。

バーミンガム市交響楽団2013年日本公演
2013年11月19日(火)19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
アンドリス・ネルソンス指揮バーミンガム市交響楽団
・ベートーヴェン:バレエ「プロメテウスの創造物」序曲
・ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15
アンコール~
・ラフマニノフ:絵画的練習曲「音の絵」作品33~第2番ハ長調
休憩
・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
アンコール~
・エルガー:朝の歌~2つの小品作品15

例によって舞台上手側2階前列の席を押える。つまりオーケストラを真横から見下げる位置。要はエレーヌの演奏中の顔をずっと見ていたかったから(笑)。決して追っかけ的、ストーカー的発想ではないですよ。表情や仕草からどのように音楽が創られていくのかをこの目でしっかと確認したかったということ。

ということで本番を迎える。
ベートーヴェンの序曲からオーケストラの力が感じられた。弦がとても濃厚な音。それとティンパニが肝。ネルソンスの音楽作りも流麗。短い序曲が終了して、エレーヌ登場。
ブラームスの協奏曲については本当にいろいろ思った。ピアノの音が心なしか濁って聴こえたこと、オーケストラの強奏にピアノの音が時に埋もれてしまったこと、座席の場所の問題からそういう事態もところどころあったけれど、そんなことを吹っ飛ばす瞬間が多発。何よりエレーヌ独奏時の神々しさ。それと、指揮者のネルソンスへの強烈なアイコンタクトと、目を瞑ったまま時計回りに回転し音楽を創造してゆく姿の実に音楽的なこと!楽章を進めるにつれいよいよ音楽は深くなり、一層熱を帯びる。
「クララの肖像」とブラームスが称した第2楽章アダージョが白眉。この音楽に、いつまでも終わらないでくれとお願いしていたくらい(笑)。ピアニシモで奏される祈りの音楽に彼女の敬虔な宗教心と音楽、人々(狼たち?)への愛すら感じ、心を動かされる。そして、ついにフィナーレが・・・、火を噴いた。言うことなし。
怒涛の拍手喝采の中で徐に奏されたアンコールはラフマニノフ。こんなにも繊細で有機的なラフマニノフは初めてかも。どうにもソロ・リサイタルを聴きたまえという合図でしょうか、これは・・・。

休憩後のブラームスの第4交響曲はさほど期待していなかったけれど実に良かった。最も脂の乗った時期に書かれたこの音楽に関して、どちらかというと僕はこれまで「枯淡の境地」を示すような演奏に感動を覚えていたものだが、ネルソンスの解釈は時に「ため」を作っての、エネルギッシュで壮絶なもの(ブラームス51歳の壮年期の作だから本来はそういう音楽なのだ)。特に、終楽章パッサカリア!!第12変奏からの「嵐の前の静けさ」のような、フルートのMarie-Christine Zupancic氏の見事なソロに始まり、旋律はクラリネット、ファゴットへと受け継がれるあの楽想・・・、そして第16変奏からの急転直下の怒涛の再現・・・。興奮の極み。素晴らしかったのです。

アンコールはエルガー。ネルソンスによる英語でのスピーチの後、ヴィオラのAdam Romer氏が引っ張り出されて流暢な(?)日本語で前口上とともに曲目を披露。こちらもお国もので堂に入った名演奏。

 


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3 COMMENTS

くまがい

岡本さん、熊谷です、昨日はお疲れ様、とてもよかったですね。
グリモーはN響定期で2度ほど聞いていますが まずスタイルがよく、おやじはついその素敵な姿から入ってしまいますが 昨日の難曲も全然ミスタッチがなく強弱、迫力とも
素晴らしかったです。それとバーミンガムはとても良いオケでびっくり。ブラ4も本当に
活淡でなくアグレッシブでよかったです。私は以前サバリッシュがピアノを弾いてこのブラ4を解説したのをTVで見て、最後の音は短く切る、ここに解放は無い、と言ったので いつも最後の音が気になるのですが ちゃんと短く終わって満足。でも歯痛の状態で あれだけのブログを書けるのは岡本さんも凄過ぎですね。またゆっくりグリモーーブラームス談義でもしたいのでよろしく。

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岡本 浩和

>くまがい様
こちらこそお疲れ様でした。素晴らしかったですね。
とはいえ、やっぱりリサイタルを聴きたいというのが本音です。
なるほど、ブラームスの4番に解放はないとはよく言ったものです。ちなみに短く切るというのは終楽章のことですよね?

PS.ぜひグリモー&ブラームス談義を!!

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