イリーナ・メジューエワ ピアノ・リサイタル

mejoueva_20131206イリーナ・メジューエワは相当に日本語が巧い。ほとんどネイティブに近い発音は、彼女の耳の良さときちんと正しく表現しようとする律儀な性格を想像させる。僕は彼女と個人的な知り合いでも何でもないので、どういう性質の方なのかは当然知らず、まったくの推測でしかないのだけれど。
それでもピアノを聴けばある程度わかる。決して道を逸れることなく、あくまでも正統に解釈を施し音楽を再現する。あまりに真面目過ぎて面白くないという意見もあろうが、しかし僕は十分楽しめた。

音楽専用ホールでない、あまりにデッドな響きの会場のせいもあろうが、メジューエワの打鍵は異様に迫力があった。そして楽想の細部まで見事に見通すことができたことが何より。特に、左手の、普段ならあまり意識しない低声部が一層明確になり、バッハではいかにもポリフォニックな側面が如実に強調され、しかもモーツァルトやベートーヴェンではいわゆる伴奏部が浮き彫りになって音楽の出で立ちが手に取るように見えた。

イリーナ・メジューエワ ピアノ・リサイタル
2013年12月6日(金)19:00開演
成城学園五十周年記念講堂
・J.S.バッハ:フランス組曲第5番ト長調BWV816
・モーツァルト:トルコ行進曲(ソナタイ長調K.331より)
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2「月光」
・ウェーバー:舞踏への勧誘作品65
休憩
・ショパン:華麗なる大円舞曲変ホ長調作品18
・ショパン:軍隊ポロネーズ作品40-1
・ショパン:3つのワルツ作品64
・ラフマニノフ:練習曲「音の絵」ハ長調作品33-2
・ラフマニノフ:前奏曲ト長調作品32-5
・ラフマニノフ:前奏曲嬰ハ短調作品3-2
・メトネル:夕べの歌作品38-6
・メトネル:プリマヴェーラ(春)作品39-3
~アンコール
・メトネル:おとぎ話
・ショパン:練習曲第3番ホ長調作品10-3「別れの曲」

メジューエワはすべて譜面を見ながら丁寧に演奏する。前半のドイツ物は、もう少し遊びの要素があっても良いのではと思わせる堅牢な解釈。とはいえ、冒頭に書いたようにバッハのポリフォニーの各声部が細かく見えたことが収穫。面白かった。それと、余談ではあるが、「舞踏への勧誘」のエピローグ前で絶対に拍手が起こるのではないかと危惧していたところ案の定。ピアニストは右手で静止しながら「まだ終わりじゃないわよ」と・・・。こういうハプニングもライブならではで良し。
休憩後がメジューエワの真骨頂。後半冒頭、ピアニスト自身の日本語による解説。特に、彼女自身思い入れの深いメトネルについて、ロシア的要素とドイツ的要素の融合した浪漫的な作品であることを紹介。しかしながら、僕の中ではショパンの作品64が白眉。第2曲と第3曲を敢えて入れ替えた、ショパンが生前最後に出版したこのワルツ集の、何とも健康な響きがかえって当時のショパンの病のほどを伺わせるようで心に迫った。真面目な、そして優等生的なメジューエワのピアノがこの時ばかりは揺れた。「小犬」も嬰ハ短調も変イ長調も実に悠然としたテンポで(僕の理想のテンポ!)、しかも小洒落たフランス的エスプリにも長けていたところが粋。ラフマニノフの作品33-2は先日グリモーがアンコールで演ったのを聴いているので、期せずして比較になったが、ここはグリモーの勝ち。有名な嬰ハ短調のプレリュードはさすがに堂に入る。
十八番のメトネルは・・・、とても美しかった。

 


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