クナッパーツブッシュ&バイエルン州立歌劇場の「神々の黄昏」を聴いて思ふ

wagner_gotterdammerung_knappertsbusch_1955「神々の黄昏」の第2幕フィナーレは人間の欲望や怨み、憎悪という負の感情が渦巻く、ある意味「指環」のクライマックスとなる箇所だ。
ここを聴くたびに、どこか「暗い思い」に駆られるが、しかし音楽的には様々なライトモティーフに溢れ、充実していることは確か。「贖罪の誓い」、「殺害欲」、「災い」、「運命」、「苦難」、「執念」など種々の動機が・・・。

苦悩する主人公たちの前世の照り返しが次の新しい生にまざまざと映り込むことによって、単純な物語は意義深いものとなる。この二重の生の想起が音楽によって絶え間なく、ありありと響き合うだけで、聴く者をそうした感覚へとすっかり誘い込むことができるのではないかと、わたしはすぐに気づいた。だからこそ、ひときわ思いを込めて「勝利者たち」の台本に取り組むことを自分に課そうと決めたのである。
リヒャルト・ワーグナー「わが生涯」

「勝利者たち」というのは仏陀の生涯を描こうとした楽劇だが、結局草稿のみしか残されていない。ちなみに、1870年5月1日付コジマの日記には、その夜リヒャルトが「勝利者たち」について語った旨が書かれている。そこで彼はこう言ったそうだ。「再生の秘密を描くことができるのは、音楽だけだからね」と。
実に興味深い。何よりワーグナーが「再生」の秘密を探ることを生涯のテーマにしていたことが重要だ。間違いなく「悟り」の一歩手前にあったであろうワーグナーのこの宗教劇を知ることができない無念。

クナッパーツブッシュ&バイエルン州立歌劇場による1955年の実況録音を聴く。
1951年のバイロイト・ライブも素晴らしい。1956年のバイロイト・ツィクルスも最高だ。しかし、何と言ってもここではビルギット・ニルソンがブリュンヒルデを歌うのだ。この圧倒的歌唱。第2幕最後のブリュンヒルデ(ニルソン)、グンター(ヘルマン・ウーデ)、ハーゲン(ゴットロープ・フリック)の三重唱の凄みと言ったら・・・。

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」
ベルント・アルデンホフ(ジークフリート、テノール)
ヘルマン・ウーデ(グンター、バリトン)
ゴットロープ・フリック(ハーゲン、バス)
オタカール・クラウス(アルベリヒ、バリトン)
ビルギット・ニルソン(ブリュンヒルデ、ソプラノ)
レオニー・リザネク(グートルーネ、ソプラノ)
イラ・マラニウク(ヴァルトラウテ、メゾソプラノ)
エリーザベト・リンダーマイアー(ヴェルグンデ、メゾソプラノ)ほか
バイエルン州立歌劇場合唱団
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイエルン州立歌劇場管弦楽団(1955.9.1Live)

様々に入り組んだ伏線の果てにブリュンヒルデが自らを犠牲にする、ジークフリート亡き後のこの第3幕第3場は圧巻だ。終演後の聴衆の怒涛のような拍手喝采がそのことを裏付ける。
(録音の関係かオーケストラが弱いことが残念)

最後の「指環に近づくな!」というハーゲンの言葉がいかにも虚しく響く。そして、その後に訪れるのは「愛の救済の動機」。

 


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