N響第1778回定期「ヤノフスキのブルックナー第5交響曲」

janowski_nhk_20140412NHK交響楽団1778回定期公演。
巨大なNHKホールの3階後方席は自由席¥1,500である。ほとんどどの座席においても音が拡散し、音楽の詳細がまったくつかめないこのホールにあって、実に3階自由席は穴場であることを今年になってから知った。何よりオーケストラの全貌をはっきり捉えることができ、音もそれなりにしっかり届くのだから充分。本日も堪能した。

しかしながら、やや拍子抜けのブルックナー。
ちなみに、ブルックナー音楽の肝が木管であることを僕は今日悟った(遅いか?笑)。例えば、有機的な響きの金管の咆哮は天の声。そして、いわゆるブルックナー開始というものが弦楽器のトレモロであることを考えると、ブルックナーにおいての「弦」は大地を表す。その間にあって、美しい旋律を奏でる木管楽器は鳥の、というか森羅万象生きとし生けるものの音だ。本日のヤノフスキのブルックナーにおいてもクラリネットやフルート、オーボエの音色が素晴らしかった。一方、金管群は残念ながらいまひとつ。そうなると、途端にブルックナーの音楽は魅力をなくす。初日だったからなのかどうなのか、いかにもちぐはぐなシーンが散見された。

NHK交響楽団第1778回定期演奏会
2014年4月12日(土)18:00開演
NHKホール
マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団
堀正文(コンサートマスター)
・ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調(ノヴァーク版)

エンジンがかかり始めたのは第2楽章アダージョの後半から。というより、ヤノフスキのこじんまりとした音楽作りからするとこの楽章が最も性に合っていたという方が正しい。終始音響を抑え、弦が撫でるように、そして木管が歌うように音楽が創造されゆく様は圧巻だった。どちらかというとテンポを適度に揺らすヤノフスキの解釈においては第3楽章スケルツォも愉悦に富み、良かった。問題はフィナーレ。冒頭の、第1楽章から第3楽章までの主題を否定するクラリネットの巧さが光り、どの瞬間も木管群は(相変わらず)美しかった。しかし、金管群がやっぱり不調だったのでは?とにかく鳴らない、あるいはこけるのである。音楽がいつまで経っても解放されず、あの壮大かつ雄渾なコーダにおいても結局大人しい、いさかか不満の残る出来栄えのまま棒が下ろされた。この、精緻に組み上げられた大伽藍を形にするのは本当に難しいのだと思う。

ところで、第5交響曲の初演は、1894年4月9日、グラーツにおいてフランツ・シャルクの指揮で。ほぼ120年前のことだ。この時は悪名高い改訂版(改竄版)によるものだったが、確かにその当時の聴衆がこの原典版を聴いて理解したかどうかは真に怪しい。その意味においては、師の名声を汚さないという意思をもって弟子たちがオーケストレーションをわかりやすくし、不要だと思われる部分をカットしたことを批判するのはナンセンスなのかも。そんなことを考えながらいつまでも音楽に没入できない僕がいた。双林樹下に心猿意馬をつながねばと自問しつつ・・・。

第5交響曲のシャルク改訂版は原典版とは似て非なる別の音楽だが、あれはあれで実に面白い音楽だと僕は思っている。一度実演で触れてみたいもの。

 


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3 COMMENTS

畑山千恵子

この作品のシャルク版は、野口剛夫が取り上げ、CDになりました。今でも入手できると思います。私は演奏は聴きましたし、CDも買いました。5年前に売却しました。

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岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] ちなみに、僕は朝比奈御大が亡くなってからブルックナーの実演をほとんど聴いていない。 ブルックナーの音楽を封印したいと思ったわけではないのだけれど、幾度も耳にした御大のあの愚直でありながら崇高な音響が忘れられず、上書きしたくないという想いに駆られるから。振り返ってみると、朝比奈逝去の翌年、大阪フィル東京定期で若杉弘の棒により第3番を聴いた。また、何年か前、飯森泰次郎指揮東京シティ・フィルで第5番も聴いた。それと、マレク・ヤノフスキ指揮N響による第5番をNHKホールで聴いたか。あ、エリアフ・インバル指揮東京都響で第6番も聴いていた。いずれにせよ17年間でその程度だ。いや、絶品を忘れていた。ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮読響の第5番(泣く子も黙るシャルク版)。あれは凄かった。 […]

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