アーノンクールの「ニューイヤー・コンサート2003」を観て思ふ

new_year_2003_harnoncourt決然とした棒さばきは―指揮棒は持っていないけれど―いかにもアーノンクールのそれだが、まさか彼がウィーン・フィルのニューイヤーの舞台に立つとはその時まで思いも寄らなかった。ところが、2度にわたるニューイヤーでのシュトラウス・ファミリーの作品解釈が颯爽として直線的で実に面白いのだ。ほとんどポピュラー音楽に近い「ワルツ」や「ポルカ」を一刀両断して、中身、断面までを見せてくれるとでもいおうか。例えばシュトラウスⅡ世の「皇帝円舞曲」。この美しくも高貴な音楽が、アーノンクールの大きな身振りと細やかな手の動きから見事に紡がれる様。途中シェーンブルン宮殿の映像が挿入されるのがいかにも残念だが、コーダ手前のチェロとハープの静かな掛け合いに魅了され、轟然たる怒涛の終結に心震える。何という活き活きとした音楽であることか!!続く「農夫のポルカ」がまた素晴らしい。僕の中では1989年のニューイヤーでのカルロス・クライバーの演奏が随一だったが、勝るとも劣らず。

ところで、2003年のコンサートではなんとウェーバーの「舞踏への勧誘」が採り上げられたみたい。いわゆる「聴かせるワルツ」の先駆けとなったこの作品をニューイヤーで演奏したのはアーノンクールが最初らしい(今のところ最後でもあるが)。このあまりに人口に膾炙した音楽が実にホットに、そしてフレッシュに奏されるのはピリオド解釈で鍛えたアーノンクールならではの研ぎ澄まされた感性によるものなのかどうなのか・・・(ともかく一度聴いてみていただきたい)。

ニューイヤー・コンサート2003
ヨハン・シュトラウスⅡ世:
・「皇帝フランツ・ヨーゼフⅠ世の解放祝典行進曲」作品126
・「宝のワルツ」作品418
・「ニコ・ポルカ」作品228
・「冗談ポルカ」作品72
ヨーゼフ・シュトラウス:
・ワルツ「うわごと」作品212
・ポルカ・シュネル「ごちゃまぜ」作品161
ウェーバー:
・「舞踏への勧誘」作品65(ベルリオーズ編曲)
ヨハン・シュトラウスⅡ世:
・ポルカ・フランセーズ「セクンデン」作品258
・「ヘレーネ・ポルカ」作品203
・「皇帝円舞曲」作品437
・「農夫のポルカ」作品276
・ポルカ・マズルカ「女性賛美」作品315
ヨハン・シュトラウスⅠ世:
・「中国風ギャップ」作品20
ブラームス:
・ハンガリー舞曲第5番
・ハンガリー舞曲第6番
ヨハン・シュトラウスⅡ世:
・ワルツ「戴冠式の歌」作品184
・ポルカ・シュネル「浮気心」作品319
~アンコール
ヨハン・シュトラウスⅡ世:
・「狂乱のポルカ」作品260
・ワルツ「美しく青きドナウ」作品314
ヨハン・シュトラウスⅠ世:
・ラデツキー行進曲
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2003.1.1Live)

あと、珍しいブラームスのハンガリー舞曲。大見得を切る第5番も、大交響曲に匹敵する大仰な第6番も、音楽がうねり、咆哮し、実に気味良い堂々たるもの。
そして、アンコールのひとつである恒例「美しく青きドナウ」の前のアーノンクールによる新年の挨拶が粋。

Die Musik ist die einzige Sprache der Welt, die alle Meschen verstehen können.
音楽は世界中の人々が分かち合える唯一の言語です。
~ニコラウス・アーノンクール

久しぶりにニューイヤー・コンサートに酔いしれた。


2 COMMENTS

畑山千恵子

このコンサートは高く評価しています。「舞踏へのお誘い」を取り上げたことはウィンナ・ワルツの歴史をたどる上では貴重でしたし、ブラームスのハンガリー舞曲を取り上げたことは、ヨハン2世とブラームスとの関係を知るうえでも重要です。
ただ、ヨハン2世は、ブラームスとの関係はヴィーン音楽界での付き合いを優位に進めるためであって、新から゛ラームスを尊敬していたとはいえません。ブラームスの死後、ブラームスの音楽は冷たいという、チャイコフスキーの評価をうのみにしていました。チャイコフスキーはブラームスに始めて会った時、ブラームスがピアノを弾いていた時にずかずか入り込んだため、ブラームスが不快がったことが原因でうまくいきませんでした。その後、ハンブルクで、チャイコフスキーの交響曲第5番が演奏された折、ブラームスとチャイコフスキーが出会って、ブラームスが交響曲を評価したりしました。
ヨハン2世の場合、この点については後の研究次第ですね。

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