カルロス&エーリヒ・クライバーのボロディン交響曲第2番を聴いて思ふ

borodin_carlos_erich_kleiber010小春日和。空気は清澄。冷たい夜風がまた爽快。

音楽家というのも突然変異はなく、DNAに深く刻まれた遺伝というものがあるのだと知った。細部は異なれど、造形の基本設計はほぼ同じ。エーリヒとカルロス。2人のクライバーのアレクサンドル・ボロディンを聴いて、重厚なドイツ古典派の形式に則りながら、あくまで颯爽として軽快なロシアン・ロマンティシズム溢れる旋律の宝庫だと思った。

ボロディンの交響曲第2番は、ベートーヴェンの交響曲第5番を範とする。不穏な、作曲家が言うところの「勇壮な」主題を持つ冒頭楽章は、いかにも「運命がこのように戸を叩く」といわんばかりのドイツ的堅牢な音楽。しかし、この旋律は一度聴いたら耳から離れない。20世紀初頭にラヴェルらによって旗揚げされた芸術家集団「アパッシュ」の秘密のテーマ音楽として使われたというのも納得できる。

アパッシュの集いがどれほど興奮に満ち、熱狂が渦巻いていたか、再現するのは難しいだろう。レオン=ポール・ファルグが書いているところによれば「ラヴェルは我々の好みや趣味、つまり中国美術、マラルメ、ヴェルレーヌ、ランボー、コルビエール、セザンヌ、ヴァン・ゴッホ、ラモー、ショパン、ウィスラー、ヴァレリー、ロシア人たち、そしてドビュッシーに対する我々の熱狂ぶりを共有していた」という。
アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」(音楽之友社)P42

「日曜作曲家」と揶揄されたボロディンは、であるがゆえに革新的だった。化学を生業とした彼にとって音楽も確かに挑戦だった。ベートーヴェンという規範を遵守しながら独自の方法を探ったということだ。

ボロディン:交響曲第2番ロ短調作品5
カルロス・クライバー指揮シュトゥットガルト放送交響楽団(1972.12.12Live)
エーリヒ・クライバー指揮NBC交響楽団(1947.12.20Live)

豪放な第1主題に対して、あまりに抒情的な第2主題、このあたりもベートーヴェンに通じる。しかも解決となる終楽章は長調に転じ、まさに「苦悩から勝利へ」の模範となる。

土俗的かつロシアン浪漫を髣髴とさせる音楽の懐かしさよ。
第2楽章スケルツォの、いかにも19世紀風旋律に酔いしれ、美しき第3楽章アンダンテに恍惚とする。
終楽章アレグロは極めて明快だ。何という解放!!
それにしてもこういう音楽を振らせるとカルロス・クライバーの即興性、オーケストラ操縦術は見事なもの。父エーリヒの流れの早い解釈に比して、一層空間を重視した演奏。

アパッシュが積極的に参加していた音楽界は際立って多様性に富んでいた。国民音楽協会が同時代のさまざまなフランス音楽を提示する一方、1828年に創立されたパリ音楽院演奏協会ではバッハからワーグナーに至る作品が演奏された。
~同上書P42

東方と西方のあらゆる音楽的イディオムを吸収して創られた都会派音楽の妙・・・。
ボロディンは地に足をつけながら空想した類稀な音楽家だった。

 

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