ミレッラ・フレーニ「EMIオペラ名演集」を聴いて思ふ

mirella_freni_emi_recordings091時に可憐で美しく、時に悲しく壮絶だ。若きミレッラ・フレーニの名唱。
愛をささやくフレーニの歌声は限りなく透明で、悲劇のヒロインを演じるフレーニの歌は真に劇的だ。

オーギュスト・ロダンは「花について」という手記の中で、生命の儚さと死するものの美しさをかく表現する。

私はこの小さな花さしにプリムローズを挿した。

少しこみ合っている。あの哀れな小さな茎は囚われの身だ。もう自分たちの花園にいるのではない。私は解剖学者のように、卓の上の彼らを見る。百姓のように、剛健な、頭の円い、その美しい葉を讃嘆する。その葉が私の方を指している。茎の間は花である。こちら側の一つが首を垂れている。柱像のように美しい。横向きにそれは葉を持ち上げているかと見える。その葉に倚りかかりまたその葉の蔭にいるのだが。
高村光太郎訳/高田博厚・菊池一雄編「ロダンの言葉抄」(岩波文庫)P81-82

ロダンは「これらの小さな花は美しくもなく、また華やかでもない」と続けるが、囚われであるがゆえの美しさは確かにあると僕には思える。しかしながら、これはもう人工的なもので、つまり人間のエゴから発した勝手気ままな所業であり、この言葉から金子みすゞの感性を思い出したほど。

フレーニの歌唱には、囚われ、自由でないがゆえの美しさがある。厳格さと、あくまで正面から表現しようとするおそらく真面目な性格が反映された哀しみがある。

花は彼らの生命をわれわれにくれる。彼らはペルシアの花瓶の中に置かれるべきだ。彼らの傍では、金銀は値なく見える。

ああ、親しき友よ、もし君たちがわれわれに言葉をかけてくれるようであったらわれわれはきっと君たちを恋する!われわれは君たちを見守っていねばならない。さもないと君たちは、絶望して、花瓶から落ち、君たちの葉は枯れる。

花と瓶とは対照によって調和する。
~同上書P83

高村光太郎の名訳のひとつであろう。まるでミレッラ・フレーニの歌を評しているかのようだ。「フレーニEMIレコーディングス」から1枚を。

ミレッラ・フレーニ/EMIレコーディングス
ヴェルディ:歌劇「オテロ」~
・「もう夜も更けて」(第1幕)
・「あなたはよく話してくださいました」(第1幕)
・柳の歌「歌いつつ泣く、寂しい荒野の」(第4幕)
・「アヴェ・マリア」(第4幕)
ジョン・ヴィッカース(テノール)
ステファニア・マラグ(メゾソプラノ)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1973.4.30, 5.1-2&22-27録音)
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」K.492~
・「スザンナは来ないわ~甘さと喜びの美しい時は」(第3幕)
ベッリーニ:歌劇「清教徒」~
・狂乱の場「あなたの優しい声が」(第2幕)
ヴェルディ:歌劇「椿姫」~
・「ああ、きっとあの方なのね~花から花へ」(第1幕)
フランコ・フェラリス指揮ローマ歌劇場管弦楽団(1964.8.4-8録音)
マスカーニ:歌劇「友人フリッツ」~
・「この僅かな花を」(第1幕)
・「美しい騎士様」(第2幕)
・「真っ赤に熟した」(第2幕)
・「私には涙と苦しみしか残らない」(第3幕)
ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
ジャナンドレア・ガヴァッツィーニ指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団(1968.8.29-31 & 9.1-7録音)
ドニゼッティ:歌劇「ランメルモールのルチア」~
・「裏切られた父の墓のもとで~吐息は微風に乗って」(第1幕)
ニコライ・ゲッダ(テノール)
エドワード・ダウンズ指揮フィルハーモニア管弦楽団(1966.2, 6, 7, &8録音)
チレア:歌劇「アドリアナ・ルクヴルール」~
・「ほら、少し息をついただけですわ」(第1幕)
・「可哀想な花よ」(第4幕)
アントニーノ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1967.6.6-7, 12 &14録音)
プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」~
・「ある晴れた日に」(第2幕)
・「私の坊や!」(第2幕)
レオーネ・マジエラ指揮ミラノ・イタリア放送交響楽団(1966.1.10-12録音)

名作オペラの単なる抜粋などと侮るなかれ。ミレッラ・フレーニの絶唱を記録した、そして、ヴィッカースやパヴァロッティ、ゲッダなど往年の名歌手たちとの協演を記録した最高のオムニバスだと思う。

 

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