アルゲリッチ・コンセルトヘボウ・ライヴ1978&1979を聴いて思ふ

argerich_concertgebouw_live_1978394ギター・クラフトでのロバート・フリップ。

午後のグループ・ギター・レッスンでロバートは私たちに奇妙なリズムを熱心に講義した。それは難しいゲームのようだった。彼は大声で、時にはささやくように数をカウントした。例えば5/8拍子の場合はその流れの下に4拍を常に意識するように、とフリップは言う。1/8のリズムを第一拍、第三拍に置き、基本となる八拍をカウントしながら、1/4拍で足を軽く叩く、というのがベーシックなパターンだった。
(中略)

次にフリップはひとつのグループに5拍子で、もうひとつのグループには7拍子で同時に演奏させた。つまり35拍がひとつの周期をなしている。一方のグループが5拍ずつ強拍(slashing)し、もう一方が7拍ずつ驚拍(thrashing)するというコンビネーションに私たちは当惑した。
(中略)
そして、フリップは第三のギタリストのグループをそれに加えた。彼らはリズム感にすぐれていて、強拍と驚拍のコンビネーションを保ちながらもメロディックなリフを演奏することができた。フリップは各グループの間を歩きまわりながら、アドヴァイスを与え、全体のパターンを整えていった。
(中略)
ところがいったんスムースに進行し始めると、それは素晴らしいサウンドを生み出した。それは両側にそれぞれ7個と5個の車輪をもった巨大な蒸気機関車が何百ものブリキ缶を引きずりながら時速90マイルで走っているような轟音だった。
エリック・タム著/塚田千春訳「ロバート・フリップ―キング・クリムゾンからギター・クラフトまで」(宝島社)P235-236

この計算された緻密な数学的魔法こそロバート・フリップの天才である。
そして、それはおそらくバルトークやプロコフィエフ、あるいはヒナステラにも備わっていただろう方法だ。

これで先ほどの拍が均等でなかったことが分かったが、小さい均等な拍が加わったので、誰かが「8分の7拍子でしょ」と答えた。だが、その答えにも父は満足しなかった。不規則に長い拍が問題だった。そこで父は、こうしたリズムはブルガリアの民謡に多く見られ、」小節内が等分できると思っている西洋人の耳には馴染みにくいことや、典型的な「ブルガリアン・リズム」はある拍が残りの拍と違っていて、そこにいろいろなパターンがあることを説明した。こうしたことから、譜例のリズムは8分の7拍子ではなく、8分の2+2+3拍子と表現されると言った。
ペーテル・バルトーク著/村上泰裕訳「父・バルトーク―息子による大作曲家の思い出」(スタイルノート)P215

もう15年も前のこと。
あの日、あの時、錦糸町で聴いたマルタ・アルゲリッチのピアノ。
異様な緊張感を漂わせた中での16年ぶりのソロとあって、しかも一度はその年の2月の公演が決まっていたものの本人の急病でキャンセルになったこともあり、この歴史的な瞬間を一目見ようと大勢の観客が集まった中でのリサイタル(後半はイヴリー・ギトリスとのデュオ)。緊張するなという方がおかしいくらい。
演奏されたすべての作品は最高の出来だったけれど、中でもプロコフィエフの「戦争」ソナタは圧巻だった。

アルゲリッチ・コンセルトヘボウ・ライヴ 1978&1979
・J.S.バッハ:パルティータ第2番ハ短調BWV826(1979.5.7Live)
・ショパン:夜想曲第13番ハ短調作品48-1(1978.4.22Live)
・ショパン:スケルツォ第3番嬰ハ短調作品39(1978.4.22Live)
・バルトーク:ピアノ・ソナタSz.80(1926)(1978.4.22Live)
・ヒナステラ:アルゼンチン舞曲集作品2(1937)(1978.4.22Live)
・プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調「戦争ソナタ」作品83(1979.5.7Live)
・スカルラッティ:ソナタニ短調K.141, L.422(1978.4.22Live)(1978.4.22Live)
・J.S.バッハ:イギリス組曲第2番イ短調BWV807~ブレー(1978.4.22Live)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)

変拍子とポリリズムの極致。
1978年と79年のコンセルトヘボウでのライヴも真に素晴らしい。特に、超絶技巧を要する20世紀の作曲家たちの作品に対する愛情。

何という劇性。
何という激しさ。
何という哀愁。
何というパッション。

強烈なエネルギーを発する音楽の裏側にある、抒情。
男性性と女性性が混じり合い、何とも表現し難い、まるで目の前で蠢く生きもののような音楽。例えばヒナステラ!!(キース・エマーソンはここから多大な影響を受けているようだ)

自分のことには無頓着だが、人の話にはすぐ感情移入してしまう。友人が失意のうちにあると知ると、四六時中そのことしか考えられなくなる。マルタにとって、人の心に関わることは仕事へのどんな責任よりも大切で、気がかりなことなのだ。
オリヴィエ・ベラミー著/藤本優子訳「マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法」(音楽之友社)P90-91

アルゲリッチの音楽が人々に感動をもたらすのは、純粋な心と人一倍の思いやりゆえだろう。久しぶりに彼女の実演を聴きたくなった。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む