ターニア&エリック・ハイドシェックのブラームス シューマン変奏曲作品23を聴いて思ふ

brahms_tania_eric_heidsieck413恋というものが芸術家の魂に火をつけるのだろう。
燃え盛った魂から創出された作品は、ことごとく人々を惹きつけ癒す。

昨日、あなたの手紙を受け取りました。愛するクララ。僕が切に望んでいるのは、あなたを慰めてさしあげること以外にはありません。しかし、どうやってそれを?
(1856年10月28日付、ヨハネスからクララ宛)
三宅幸夫著「カラー版作曲家の生涯 ブラームス」(新潮文庫)P58

内気なヨハネスはとるべき行動を考えあぐねたのか・・・。想いを言葉に託す以上に音楽作品に投影した方がやりやすかったのか、師ロベルト・シューマンが亡くなった翌年に生み出された変奏曲の、どの瞬間も霊感と哀愁に溢れ、甘美な旋律を持つ音楽に心震える。時折みせる激流のような熱いパッションの奔流に思わず拳を握ってしまうほどだが、それは激しい打鍵とそっと歌われる柔らかな奏法の対比から生じるこのピアニストならではの技。

間違いなくこの時ヨハネスはクララに恋をしていた。ポーコ・ラルゲットの自作主題の可憐な響きは内燃する恋の炎の如く。11の変奏各々に通底するのは美しいエロス。時に叫び、時に囁き・・・。
エリック・ハイドシェックはブラームスの内なる感情の揺れをピアノで見事に表現する。
また、「6つの小品」作品118の第2曲「間奏曲」の美しくも理想的なためと儚さに晩年のヨハネスの詩情と諦念を想う。この時期、クララとの関係がもつれにもつれていた頃。涙が出るほど哀しいのである。

シューマンの名とあなたの名を結びつけるのを、私が好まないとはなんととんでもない誤解をなさるのでしょう。そんなお考えはきっと魔がさした折にでも起こったのだと思います。長年の芸術的な協力の後に、そんなお考えを私の言葉からお引き出しになるとは、私にはとうてい呑み込めないことでございます。
(1892年9月27日付、クララからヨハネス宛)
ベルトルト・リッツマン編/原田光子編訳「クララ・シューマン×ヨハネス・ブラームス友情の書簡」(みすず書房)P272

堪忍袋の緒が切れたかの如くクララの怒りが爆発する。

ブラームス:
・自作主題による変奏曲ニ長調作品21-1
・6つの小品作品118
・ロベルト・シューマンの主題による変奏曲変ホ長調作品23(4手のための)
エリック・ハイドシェック(ピアノ)
ターニア・ハイドシェック(ピアノ)(2008.4録音)

一層素晴らしいのはハイドシェック夫妻の連弾によるシューマン変奏曲!
狂気を発症する直前のロベルトがひらめいたという「最後の楽想」を主題にするこの変奏曲を完璧に奏するエリック&ターニアはまさに一心同体。
例えば、第7変奏の懐かしさを帯びる旋律に思わずときめき、エネルギッシュな第9変奏にヨハネス・ブラームスの未来への希望を垣間見る。

たぶん、もっと先になれば、すべてはもっと幸福になって、私たち二人も、同じ都会に住み、もっと静かな生活が必要になる時が訪れるかもしれません。愛する友とともに住むということによって、たとえ私の幸福は失われていても、ふたたび平和と新鮮さをとりもどすことができるかと思われます。
(1861年2月13日付、クララからヨハネス宛)
~同上書P117

仲睦まじきかな。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ


2 COMMENTS

岡本 浩和

>雅之様
誕生日おめでとうございます。

初めてコメントをいただき、その後お会いする機会もできましたが、早いものであれから8年ほど経過します。
10年なんていうのはあっという間です。
ブラームスが第4交響曲を書いたのはよく考えると今の僕の歳なんですね・・・。
そして雅之さんはブラームスの享年まであと9年ですか・・・、うーむ、何とも複雑です。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む