スティーブ・ライヒの”Come Out”, “Proverb” &”The Desert Music”を聴いて思ふ

reich_come_out432時間は消えゆくが、おそらく永遠だ。
人はどこから生まれ、どこへ行くのか・・・。
執拗さは時に快感を喚起する。
永遠の反復性、そして継続性は達成感をもたらす。
人間は創造によって美を閉じ込めた。
終りがないと思われる音楽が突如終わるときのカタルシス。

ライヒは、コルトレーンがサクソフォーンを持って外へ出ていき、たったひとつか二つの和声で自由自在な即興をやり、そして夜の闇のなかに消えていく、そんな光景を思い浮かべることを好んだ。ライヒはのちにこう言っている。「音楽はただ生まれてきた。理屈なんてない。そこにあるんだ。このことが私に人間の選択を、ほとんど倫理的・道徳的な選択を与えてくれた」。
アレックス・ロス著/柿沼敏江訳「20世紀を語る音楽2」(みすず書房)P502

「音楽がただそこにある」という言葉の真実性!
さらに、ライヒは言う。

シェーンベルクはその時代をひじょうに誠実に音楽で描いてみせた。それには敬意を表したい―だけど僕は彼のように書こうとは思わない。シュトックハウゼン、べリオ、ブーレーズも、第二次世界大戦後に焼け野原になった大陸の後始末をするということがどういうことなのかを、誠実なやり方で描いてくれた。でもアメリカ人にとっては、1948年や1958年、あるいは1968年に―つまりテールフィンやチャック・ベリー、大量のハンバーガーが売られているという現実の状況のなかで―こういうものではなくて、暗褐色のウィーンの不安を現実に引き受けているかのように装うことは、嘘をつくこと、音楽によって嘘をつくことになる・・・
~同上書P499

現代音楽の盛衰は大衆から支持を得られるかどうかが鍵だと彼は言うのだ。実際に、ライヒこそはいち早くジョン・コルトレーンを発見し、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやデヴィッド・ボウイ、そしてブライアン・イーノらに確実に影響を与えた。
また逆に、ライヒはポピュラー音楽のイディオムや旋律を容易に真似、引用もした。
1995年の「プロヴァーブ」に聴こえるのは、マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」の木魂。

ライヒ:
・カム・アウト(1966)
・プロヴァーブ(1995)
ポール・ヒリヤー指揮シアター・オブ・ヴォイセズ、スティーブ・ライヒ・アンサンブル・メンバー
・ザ・デザート・ミュージック(1984)
スティーブ・ライヒ&ミュージシャンズ
マイケル・ティルソン・トーマス指揮ブルックリン・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団メンバー

「カム・アウト」の作曲は、ビートルズが「リヴォルバー」を、ビーチ・ボーイズが「ペット・サウンズ」を創作していた時代と重なる。この、クレッシェンドしながら延々と繰り返される”Come Out”という言葉の恍惚は、”Tomorrow Never Knows”や”God Only Knows”の衝撃と相似形。
また、ポール・ヒリヤー指揮する「プロヴァーブ」の古を髣髴とさせる祈りの調べに、歴史を往来する音楽の必然を思う。
そして、50分弱に及ぶティルソン・トーマスによる「ザ・デザート・ミュージック」は、3つのパートから成る第3楽章(この3つもパート2を鏡としシンメトリーを示す)を中心とし、前後2つの楽章がシンメトリーで構成されるが、冒頭から異様な緊張感に満ち、僕たちの精神に刺激を与えつつ緊張感の中幕を下ろすのである。

世界は有限だが、時間は無限だ。

 

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4 COMMENTS

雅之

>時間は消えゆくが、おそらく永遠だ。
人はどこから生まれ、どこへ行くのか・・・。

>世界は有限だが、時間は無限だ。

西暦1年の世界人口は、1億7千万~3億人くらい。19世紀初頭で 10億人弱くらい。それが2015年には73億人近くまで増えています。1872年(明治5年)、日本の人口は3千3百万人くらいでした。現在は13億人近くです。増えた人数はどこから来たのでしょうか?(日本はこれから人口減少社会に転ずるらしいですが)

先日、日本の理化学研究所(理研)が、新しい元素を合成・発見したと発表しましたね。
1秒間に2.5兆個の亜鉛ビームを80日間続けてビスマスに向かって撃ち込み、1700京回の衝突を起こした中から、たった1原子の元素113を検出したといいます。できた113番元素はわずか1万分の3秒でα線という粒子を出して崩壊し、この世から消滅します。一方、ビスマスの半減期は、1700京〜2100京年で、この値は現在の宇宙年齢の9桁以上も長いそうです。

ライヒは、哲学や数学、歴史、心理学、ガムランやヘブライ語聖書の伝統的な詠唱法、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など、あらゆる事項を研究し、ミニマル・ミュージックの追究を通過し、今と昔を往復しながら、永遠探しを続けているのではないでしょうか。

その生き方に、私は深い共感を覚えます。そして、戻るところは、

>「音楽がただそこにある」という言葉の真実性!

「考えるな、感じろ!」 ブルース・リー

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雅之

訂正 現在日本の人口は1億3千万弱。朝は忙しいので、集中力なく毎回失礼。

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雅之

1900年の世界人口が約16~17億人、私の生まれた1962年で約31億人、岡本様が生まれた翌年1965年で約33億人、大阪万博開催時の1970年で約37億人、それを考えれば現在の世界人口73億人弱って、単純にエラいことになってますよね!!

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岡本 浩和

>雅之様

確かにこの急激な人口増加は驚きですね!

>今と昔を往復しながら、永遠探しを続けているのではないでしょうか。

ライヒの考え方はすべてに通じますね。おっしゃるように”Don’t think! Feeeeeel!!!”だと僕も思います。

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