マリア・カラス「モーツァルト、ベートーヴェン、ウェーバーを歌う」(1963&64録音)を聴いて思ふ

maria_callas_studio_recitals_445芸術家は孤高でなければならぬ。
他人の声など糞喰らえ、あくまで「我が道」を突き進まねば・・・。
マリア・カラスの歌が素晴らしいのは、彼女が決してマンネリに陥らないよう常に自己に厳しかったからだ。

私たちは芸術の単なる従僕にすぎません。私たちは芸術に仕えています。自分を誇らしく感じ、周囲の人の称賛を受けますが、家に帰った途端に、その日自分がやったこと、すべきでなかったことなどを吟味します。そして「さて、明日はまた別の日が始まる」と言うのです。これが私の道で、そのように私は育てられてきました。そして偉大な芸術家が通ってきた道でもあるのです。
MOOK21「マリア・カラス」(共同通信社)P64

そしてまた、その厳しさゆえに自身の精神にも圧迫を加え、結果、私生活での数々のスキャンダルにつながったのだとも考えられる。どんなもの、ことにも表があれば裏があり、功があれば罪もあるのである。

ベルカントとは歌い方です。それは訓練であり、歌う方法、歌へのアプローチです。単に音に触れるだけでは絶対にいけません。例えば、レガートとは「すべること」ではなくて、レガートなのです。レガート、ポルタート、ポルタメント等には区別があり、数千の表現があります。何年も声をコントロールして、そうしたことができるようにする。ベルカントとはまさしく訓練なのです。
~同上書P60

よく言われるように、カラスのモーツァルトやベートーヴェンは違和感があると言えばある。
主張の強いその声が、どうしても音楽以上に目立ってしまうのである。
それでも、彼女が録音したアリアを聴いて時折僕は涙を流す。
彼女の53年という短くも壮絶な生き様がどの瞬間にも刻印され(それは彼女の人生を既に僕たちが知っているからなのかもしれないが)、人間感情のすべてが表出される、あまりに人間臭い歌が常に紡がれるからである。

・ベートーヴェン:シェーナとアリア「ああ、不実な者よ」作品65
・ウェーバー:歌劇「オベロン」第2幕~「海よ、巨大な怪物よ」
・モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」K.492第2幕~「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」
・モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527第1幕~「いまこそ判ったでしょう」
・モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527第2幕~「ひどい人ですって?」
・モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527第2幕~「何というふしだらな」
マリア・カラス(ソプラノ)
ニコラ・レッシーニョ指揮パリ音楽院管弦楽団(1963.12.6-23&1964.1.8録音)

特に心を打つのは、ウェーバー最後のオペラ「オベロン」のアリア「海よ、巨大な怪物よ」での絶唱!!自然の脅威と人間のちっぽけさ。ウェーバーの音楽も見事だが、畏怖を表現するカラスの声の力強さに舌を巻く。
一方、モーツァルト。これはあくまでカラスのモーツァルト。いかにもの伯爵夫人のカヴァティーナ「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」は、強いて言うなら老練の響き。ただし、あまりに個性が前面に出て、嘆きと悲しみ、そして祈りの念が後退している点が気になるところ。「ドン・ジョヴァンニ」の各々についても同様。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ


2 COMMENTS

雅之

>他人の声など糞喰らえ、

マリア・カラスは体内にサナダムシを飼ってダイエットを試みたといわれていますね。

http://laughy.jp/1424661980087128999

それにしても、サナダムシ効果のためかどうか知りませんが、
体重が105kgから55kgにまで減ったとは凄いです!!

ところで、私も岡本様のブログに寄生するサナダムシのようなものです。
健康のため、一刻も早く体内から追い出すことをおすすめします(笑)。

「寄生虫なき病 」( 文藝春秋)
モイセズ ベラスケス=マノフ (著), Moises Velasquez‐Manoff (原著), 赤根 洋子 (翻訳), 福岡 伸一

http://www.amazon.co.jp/%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%99%AB%E3%81%AA%E3%81%8D%E7%97%85-%E3%83%99%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%B9-%E3%83%9E%E3%83%8E%E3%83%95-%E3%83%A2%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%82%BA/dp/4163900357/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1455337925&sr=1-1&keywords=%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%99%AB%E3%81%AA%E3%81%8D%E7%97%85

返信する
岡本 浩和

>雅之様

生命というのは共生の中にあるということですね。興味深い書籍のご紹介ありがとうございます。

ということで、少なくとも雅之さんを追い出すことは僕には不可能です。(笑)
それこそ共同体感覚です。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む