Emerson, Lake & Palmer “The Return of the Manticore”(1993)を聴いて思ふ

elp_the_return_of_the_manticore474ナディア・ブーランジェについての評伝には、彼女から薫陶を受けた一人であったアメリカ現代作曲家アーロン・コープランドについても語られている。

その当時、ナディア・ブーランジェのもとに群がっていた学生のうち最も知名度の高かったのは、ウォルター・ピストン、ヴァージル・トムソン、セオドア・チャンラー、ロバート・デラニー、そして、ロイ・ハリスであり、そのほとんどがすぐに彼女の熱烈な支持者となった。その中の数人は、やがて自らも教師になると、自分の学生を彼女の所に送り込んだが、このことが彼女の教えの優秀さを雄弁に物語っている。コープランドはこの点特に熱心で、マーク・ブリッツシュタインを彼女に推薦した。
ジェローム・スピケ著/大西穣訳「ナディア・ブーランジェ」(彩流社)P92

アーロンのナディアに対する一方ならぬ尊敬の念。コープランドの諸作品にはナディア・ブーランジェのDNAが必然的に引き継がれており、ならば彼の作品を愛し、ロック音楽に編曲したキース・エマーソンにもブーランジェのDNAが引き継がれていることになるのだろうか・・・。

日々、予想もしないことが起きる。
キース・エマーソンも亡くなったのだと。享年71。あまりに早過ぎる。
一昨年の6月、モルゴーア・クァルテットのリサイタルのアンコールで披露された”The Land of Rising Sun”の美しい響きが懐かしい。これは、キースが東日本大震災をきっかけに創作した作品を荒井英治さんが四重奏用に編曲した代物。
奇しくも震災から5年目の同じ日に自ら命を絶つとは・・・。

この深い苦境に勇敢に耐えている日本の皆様のために唯一僕ができることは、イギリスから「音楽」という手を差し伸べることだけです。
~キース・エマーソン

これからももっと多くの人々に「音楽」という手を差し伸べてほしかった・・・。残念。

30余年前、初めてEmerson, Lake & Palmerの音楽に触れた時痺れた。
特に、”Hoedown”や”Fanfare for the Common Man”(庶民のファンファーレ)というアーロン・コープランドの作品に打ちのめされた。
それこそ僕はキース・エマーソンによってコープランドの名を知らされ、アメリカの現代作曲家の音楽の素晴らしさを教えられたのである。

Emerson, Lake & Palmer:The Return of the Manticore(1993)

Personnel
Keith Emerson (keyboards)
Greg Lake (vocals, acoustic and electric guitars, bass)
Carl Palmer (drums and percussion)

1993年にリリースされた4枚組ボックスには”21st Century Schizoid Man”や”Pictures at an Exhibition”のスタジオ録音バージョンなど、いくつかの新録音も収録されていたが、残念ながらこれらは緊張感が皆無で、かつて全盛だった頃を偲ぶ残骸(言い過ぎか?)という感を否めない。

僕は”Hoedown”(これも実はライブの方が一層素晴らしい)や”Fanfare for the Common Man”(庶民のファンファーレ)に涙する。
しかし、中で一層光るのは、デビュー当時の彼らのライブ録音であるDave Brubeckの”Rondo”(1970年12月録音)とFriedrich Guldaの”Prelude and Fugue”。
特に、”Rondo”の3人のぶつかり合うエネルギーの凄まじさと、一方で調和に導くキースのキーボードの絶妙な色合いに感動する。
あるいは、グルダの”Prelude and Fugue”の猛烈でニュアンス豊かな風味は、もちろんキースのアレンジが施されてのもので、その変幻自在のパフォーマンスに舌を巻く。

もう既に、私は見逃してはならないとお知らせしたメトロポリタン歌劇場のポール・ホワイトマンによるジャズのコンサートを見ました。次はご一緒しましょう。その他の、あなたが観るべき催し全てのことを話してしまうのは止めておきます。すぐにお分かりになることでしょうから。
ブーランジェ夫人によろしくお伝え下さい。あなたのためには何だってするアメリカの友人みんなのことを知れば、つゆほども心配される必要はないでしょう。
(1924年11月24日付、コープランドからブーランジェ宛手紙)
~同上書P87-88

クラシック音楽作曲家のポピュラー音楽邂逅。いかに彼らがジャズ音楽から影響を受けたか。そしてまた、クラシック音楽からロック音楽へのいわば読み替え。音楽に、否、どんなことにも本来は境界はない。

 

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4 COMMENTS

雅之

コープランドからナディア・ブーランジェ宛に手紙を送った当時、ニューヨークの街にはどのようなジャズが流れていたかを空想してみます。名作「グレート・ギャツビー」を読みながら・・・・

「グレート・ギャツビー」 スコット フィッツジェラルド (著), Francis Scott Fitzgerald (原著), 村上 春樹 (翻訳) 中央公論新社

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%84%E3%83%93%E3%83%BC-%E6%9D%91%E4%B8%8A%E6%98%A5%E6%A8%B9%E7%BF%BB%E8%A8%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC-%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88-%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%84%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%89/dp/4124035047/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1457876741&sr=1-1&keywords=%E8%8F%AF%E9%BA%97%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%84%E3%83%93%E3%83%BC

そして、その後、大恐慌を経て第二次世界大戦となり、10万人以上の都民が一夜にして命を失ったともいわれる 3月10日(奇しくもキース・エマーソンの命日になった!)東京大空襲、広島・長崎の原爆、終戦、冷戦時の核実験・・・東日本大震災・福島第一原子力発電所事故へと歴史は動いていくわけですよね。

改めて、我々にとって、火山の中から現れ地上のすべてを破壊し尽くし海に帰っていく怪物・タルカスとは何だったのでしょうか。「タルカス対ゴジラ」なんていう映画の企画は面白そうですね。ELPと伊福部 昭による音楽を用いて・・・。

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岡本 浩和

>雅之様

逝去は10日だったのですね!てっきり11日と勘違いしておりました。
ちなみに、タルカスというのはまさに火の時代である20世紀の象徴ですね。
水に還っていくというのが意味深いです。

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