ヴェンゲーロフ&グリモー 協奏曲の夕べ

maxim_vengerov_festival_2016538マキシム・ヴェンゲーロフは実演の人だ。
あの、聴衆とも一体になろうとせんばかりの意志ある音楽は、彼を眼前にせずして決してわかるまい。
先ごろ僕は、ロストロポーヴィチ指揮ロンドン交響楽団をバックに録音したベートーヴェンの遅めのテンポに「やや間延びの感は否めない」と書いた。
しかしながら、実演を聴いて思った。あのテンポが実に的を射たもので、彼のヴァイオリンを隅から隅まで堪能する上で必然だったのだと・・・。

ほぼ同様のテンポを踏襲した今回の演奏は、オーケストラの細かい瑕は別にしても、ヴェンゲーロフの何より円やかで繊細、そして豊饒な音色をもってして、聴衆を十分に感動させるものだと痛感した。実演を聴かずしてヴェンゲーロフを語るなかれ。
もちろん自作のカデンツァは独壇場。技巧も冴えに冴えた。
何より素晴らしかったのは、第2楽章ラルゲットのニュアンス豊かな、湧き立つような浪漫の癒し。心を込めて歌い抜かれるあのヴァイオリンに惹かれない人はいないだろう。

第4回マキシム・ヴェンゲーロフ フェスティバル2016
ヴェンゲーロフ&グリモー 協奏曲の夕べ
2016年5月19日(木)19時開演
Bunkamuraオーチャードホール
・J.S.バッハ:ピアノ協奏曲第1番ニ短調BWV1052
・ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61(カデンツァ:ヴェンゲーロフ)
休憩
・ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調作品83
~アンコール
・ラフマニノフ:ヴォカリーズ作品34-14
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン、指揮)
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
東京フィルハーモニー交響楽団

最初の、エレーヌ・グリモーによるバッハの弾き振りはとても良かった。
どちらかというと抹香臭い音楽が、ロマンティックにうねり、大変な集中力をもって一気呵成に奏された。おそらく眼光鋭く指示を出し、管弦楽と一体化するピアノの妙技。あの厳粛で、暗澹たる印象の音楽が光輝に満たされた。誰もが息を凝らして音楽に酔い痴れた。

そして、休憩後のラヴェルでのグリモーのピアノは、これ以上ないというくらい真に素晴らしかった。
特に第2楽章アダージョ・アッサイの薫り高きエスプリ!!もともとこの緩徐楽章は、ピアノが実に優雅で感傷的な旋律を奏でる音楽だが、グリモーが、時にジャズ的奔放さでニュアンス豊かに弾く様を見て、僕は興奮を抑えられなかった。言葉に表し難い美しさ、そして温かさ。終楽章プレストでオーケストラがかなり崩れたものの、グリモーのピアノの劇性は見事で、圧巻の時間があっという間に過ぎ去った。
怒涛のような拍手喝采。
二人は幾度も呼び戻された。

ヴェンゲーロフが再びヴァイオリンを片手にグリモーとともに登場しての、アンコールはラフマニノフのヴォカリーズ。エレーヌ・グリモーの哀感溢れる前奏に、マキシム・ヴェンゲーロフの(透き通るような)泣きのヴァイオリン!!音楽が進むにつれ、二人の呼吸(と楽器)はさらにひとつとなり、何と再現部でのヴェンゲーロフの、泉の如く湧き上がるような弱音に思わずため息がもれた。

ところで、オーチャードホールの音響はやっぱりひどい。
せっかくの豊かな音楽が拡散してしまって薄い幕を1枚通して聴いているような印象。真に隔靴掻痒の思いなり。

 

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