ホリガー指揮ローザンヌ室内管のシェーンベルク第2室内交響曲ほか(2013.1録音)を聴いて思ふ

schoenberg_holliger_lausanne562貴女から私へ、私から貴女へ。
この温もりがこの他人の子を輝かせ、浄めるのだ。
どうかその子を、私の子として産んでほしい。
貴女は私の心に光をもたらし、
私を「御子」にしてくれたのだ。

リヒャルト・デーメルのこの詩に通底するのは、大いなる愛だ。それも、すべてを許し、一切を受け容れようとする愛だ。
この詩に触発され、アーノルト・シェーンベルクが作曲した「浄夜」は、不穏な色香を感じさせつつも、その実、明朗な博愛精神が充溢し、聴く者を幸せな気持ちに誘ってくれる。
特に、ハインツ・ホリガーが指揮した同曲は、音の生々しさと臨場感に優れ、しかもいかにも楽天的な響きに満ち、心揺さぶられる。何と温かいシェーンベルク。

しかしながら、それ以上に素晴らしいのが、1906年に最初の想を得ながら、紆余曲折を経てようやく1940年に完成をみた室内交響曲第2番の、いわば固執のない解放感。無調の時代を抜け、再び調性のある音楽に戻った(?)作曲家には、そもそも調性的かそうでないかの執着などなかったということだろう。
この際、形式などどちらでも良いのである。ここにあるのはただ「内面の表出」。
ちなみに、彼が1911年に著した「和声学」には次のようにある。

あらゆる生命は内部に、自らを変化させ、進化させ、また破壊するものを宿している。生と死はともに胎芽のなかに等しく存在している。
アレックス・ロス著/柿沼敏江訳「20世紀を語る音楽1」(みすず書房)P62

見事だ。

・シェーンベルク:浄夜作品4(弦楽合奏版)
・シェーンベルク:室内交響曲第2番作品38
・ヴェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章(ラングザマー・ザッツ)(弦楽合奏版)
ハインツ・ホリガー指揮ローザンヌ室内管弦楽団(2013.1.7-12録音)

第1楽章アダージョのアンニュイ。音楽は静かにうねり、聴く者の魂を揺らがす。何と繊細で濃密な弦楽器の響き。対する木管群の決然たる音。
第2楽章コン・フオーコの、マーラー的な弾ける愉悦の妙。中でシェーンベルクは、未来への希望を謳った。彼が、戦時のあの時期にこの作品を完成せねばならなかったのは全人類の調和と平和を願ってのことではなかったか。
同じ頃、日出ずる国で武者小路が書き下ろした「人生論」の一節を思った。

死は最後のものではない。
愛はそれに打ちかつ力をもっている。愛こそ我等を導くものだ。
だが愛は、この世の不幸の多いことをなげく、不幸はいつ地上から姿を消すのか。
勇ましき人々の群は、いつ地上に満ちて、愛の讃美の歌をうたうか。
やがてくる愛の世界、
やがてくる人々の心のつながり、
愛こそは我等を結びつけて
死を越えて、遥かにゆくもの、
愛こそは我をわが身より解放し、
神の国、美の国へと我等を導く、
我は愛を讃美するなり。
我が愛よすなおにゆけ、
我を愛する愛よ、すなおにわが心の内に入れ、
私は無力なれども、
我が愛はひろがりゆかん。
ひろがりゆきし愛は、
又多くの愛を伴い帰らん。
ああ、人々が愛しあい、助けあい、
美しき国を生み出すはいつか。
武者小路実篤著「人生論」(岩波新書)P141-143

まるで晩年のベートーヴェンの精神世界を髣髴とさせる、シェーンベルクの傑作のひとつ。
彼が望んでいたものは、魂の真の平和でなかったか・・・。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む