恋の歌

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受けたまえ、ここに果実と花と葉と枝とこそあれ、
またここに、わが心あり、君にのみあこがれて鼓動つ。
真白き君が指もて、引き裂きたもうことなかれ
願わくば麗しの君が瞳に、これら貧しき捧げ物、美しとのみこそ映れ。
ポール・ヴェルレーヌ(堀口大學訳)の詩「グリーン~水彩画の章の内」の冒頭。ドビュッシーの歌曲集を聴いてみようと棚を漁って見つけたのは、スゼーがボールドウィンの伴奏で録音した一枚。全22曲、合計1時間ほどがあっという間に過ぎ去ってゆく。小雨混じる冷たい空気に晒された身体を温めるに、なんととっておきの詩であり、音楽であろうか。室内の暖かさと青年の熱い想いが重なり合い、見事な層をなしてゆく。

久しぶりに、島崎藤村の「若菜集」をひもとき、若き日に愛唱した「初恋」という一篇を思い出した。

まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり

わがこころなきためいきの その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな

林檎畑の樹の下に おのずからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ

いつ何時目にしてもどきどきするような純恋歌。藤村が、ほとんど尋常な性質の持ち主でなかったであろうヴェルレーヌに心酔したとは聞いたことがないから、この2つの詩に関係はもちろん皆無だろうが、それにしても通じるものがあるような・・・。人はいつでも「恋」をしていたいもの。ひとつになるのに一番てっとり早いから。

ドビュッシー:歌曲集
ジェラール・スゼー(バリトン)
ダルトン・ボールドウィン(ピアノ)

フランス語の歌詞を直に理解することはできないが、その流れるような音の響きを聴いていると、不思議な喜びを得られるのだから面白い。海や空、自然と戯れ、流れ行くような浮遊感・・・。絵に描いたような叙情性。そして言葉にならない寂しさよ。


5 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ドビュッシーの歌曲にお立ち寄りの際には、ぜひリリ・ブーランジェの歌曲も合わせて聴いてみてください(笑)ドビュッシーに負けず劣らず素敵ですから!
フランス歌曲はドイツ歌曲ほど詳しくはないのですが、心身共に疲れて、ドイツの正統的クラシック音楽の機能和声等が、押し付けがましくてわずらわしく感じる時などに、こういったフランス歌曲などを聴くと心地よいです。
ドビュッシーの歌劇「ペリアスとメリザンド」も好きで、時々取り出して、部分的に聴いています。ただ、言葉の壁を乗り越えるのは大変ですが・・・。
ところで、ベートーヴェンの後期、特に流れる雲のような弦楽四重奏曲第14番などは、意外にドビュッシーの世界に近いのではないかと最近感じているのですが、暴論でしょうか?

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岡本 浩和

こんにちわ。
雅之さんご心酔のリリですね(笑)!ありがとうございます。了解いたしました。フランス歌曲、確かに癒し効果ありますよね。
ただ、やはり言葉の壁は厚いです。
>特に流れる雲のような弦楽四重奏曲第14番などは、意外にドビュッシーの世界に近いのではないか
確かに・・・。
そういう意味ではベートーヴェンは100年も先を行ってたんですね。すごいことです。

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玉木宏樹

作曲とヴァイオリン演奏の玉木宏樹です。
私儀、このたび「クラシック埋蔵金、発掘指南書」(出版芸術社¥1800)を上梓致しました。
不当にも埋もれてしまった名曲150曲を紹介していますが、今回、
http://8724.teacup.com/justint/bbs
の掲示板を建て、作曲家名と作品名をお知らせしています。
一度ご覧になられてご意見,感想を賜れば幸甚でございます。
NPO法人 純正律音楽研究会のホームページもリニューアルしました。
http://just-int.com/
以上,よろしくお願い致します。
玉木宏樹
http://8724.teacup.com/justint/bbs

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たんの

ヴェルレーヌ・・・いいですね!
仕事やNPO活動(経済活動の活性化)
に追われている毎日の中で、
昔を想いだし、ひとときの安らぎを
いただきました。

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おかちゃん

>たんのさん
こんにちは。コメントありがとうございます。
ヴェルレーヌお好きなんですね。
いろんな作曲家が彼の詩に曲をつけていますので、機会あったらぜひ聴いてみてください。

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