レミ・バロー指揮アルトモンテ管のブルックナー交響曲第9番(2015.8Live)ほかを聴いて思ふ

bruckner_9_remy_ballot613神聖でありながらとても現実的なブルックナー。
神に捧げられた未完の交響曲とはいえ、近寄りがたい崇高さはなく、親近感のもてる人間的なブルックナー。
そもそも想像するほど高尚なものではないのである。
人間臭いブルックナーであるがゆえ、どんなスピードで走ろうと受け容れられるのだ。
彼の最期は切ない。
人生を全うした孤高の天才のそれは何ともあっけない。死を迎えるときは誰もが同じなのである。

骨と皮ばかりになったブルックナーがふるえる手で最後の手紙を書いたのは10月7日、聖フローリアンの弟のイグナーツと知人のアイグナーに宛ててであった。この手紙には、くりかえし「さようなら」という挨拶が記されている。10月10日、土曜日、ヴァイスマイヤーが往診したが、ブルックナーの状態は落ち着いていた。晩にはいつものように祈りをささげ、横になった。次の日の朝、ブルックナーはよい気分で目ざめ、床から出て、心地よい気分で朝食を摂った。そして、ピアノに向かって交響曲第9番の終楽章の仕事をはじめた。午後0時半、ドクター・ゾルゴが来診。とくにめだったことはなく、よく晴れているが風がとても強いので散歩は避けるように、と言って帰っていった。昼食はシュヴァーベン風のスープとソーセージ。3時ごろ、ブルックナーは寒気を覚え、お茶を運んでくれないかと頼んだ。カティが、横になったほうがよいですよと言いながら、お茶の用意をはじめ、カティの娘と、もう一人のヘルパーが彼をベッドまで連れていった。とつぜん、ヘルパーが、お茶を運んできたカティにむかって、「早く、早く」と言った。ブルックナーはカップに3回だけ口をあて、それから布団に沈んだ。しかし、2回、深く息を吸ったあとに、こときれた。午後3時30分であった。
根岸一美著「作曲家◎他人と作品シリーズ ブルックナー」(音楽之友社)P163

聖地での演奏だからといって必ずしもありがたみがあるわけではない。
しかし、作曲者が(仮に無意識下だとしても)その場所での演奏を想定して創造したとするなら、そこでのものは特別なものになるはずだ。

この演奏は素晴らしい。
第1楽章32分12秒、第2楽章14分19秒、そして第3楽章30分31秒、合計77分2秒の大伽藍。何より体感のテンポが実際よりも「速く」聴こえることが特殊。
会場の残響や指揮者の造形感覚や、あるいは聴く者のその時の体調など、様々な要素が複合的に絡んでいるだろうから一概に分析することは不可能だけれど、おそらくそれは指揮者のレミ・バローの呼吸の深さや間のとり方の巧さが見事に反映された結果なのだろうと想像する。
ちなみに、チェリビダッケのようなあざとい計算はここにはない(チェリビダッケも実演で聴いたらそんな風には感じないのだろうが)。何より自然体のブルックナー。
間と呼吸の妙。
伝わる表現の肝はそこにあろう。

・ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(原典版)
レミ・バロー指揮ザンクトフローリアン・アルトモンテ管弦楽団(2015.8.21Live)

第1楽章コーダの巨大な爆発に思わず目を剥いた。
そして、第3楽章の圧倒的な音の洪水に心奪われた。終演後の聴衆の静かな感動に溢れる拍手が美しい。

ちなみに、ボーナス・ディスクはブルックナー音楽祭でのピアノ連弾編曲版実況録音。

・ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(レーヴェ改訂版に基づくカール・グルンスキー1911年編曲版を底本にマティアス・ギーゼンとクラウス・ラチカが原典版にあわせ再構成)
マティアス・ギーゼン(第1ピアノ、ブリュートナー)
クラウス・ラチカ(第2ピアノ、ヤマハ)(2006.8.15Live)

ブルックナーの音楽の精髄のひとつは静寂、つまり休止―独特の間にある。
豊饒な彼の音楽が一層身近になるようだが、ピアノ編曲版だと間や呼吸の妙が意味深く聴き取れないきらいがあり、欲求不満に陥るのも事実。

 

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2 COMMENTS

雅之

骸骨や是も美人のなれの果て 漱石

骸骨の笛吹くように枯野かな 一茶

嗚呼、麗しき 聖フローリアン !!

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岡本 浩和

>雅之様
偉大な先人は皆悟ってますね!
20年ほど前、聖フローリアンを訪れたとき、地下のお墓詣でをしました。
周囲の数多の頭蓋骨に思ったより恐怖を感じませんでした。
何だかそれによって守られているようにも思えたのです。
不思議ですね。

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