サマーフェスティバル2016板倉康明がひらく「耳の愉しみ」―ウツクシイ・音楽

summer_festival_2016629その日聴いた音楽が素晴らしいと、心が洗われ、魂が震撼する。
ずっと幸せが続くのである。
現代の音楽の源はドビュッシーの革新にあるのだとあらためて思った。
時に凶器と化す、母なる「海」を見事に音描したクロード・ドビュッシー。その音からこれほどまでの匂いを感じたのは初めてかも。自然を生きものの如く表現した方法についてはおそらく随一だろう。

思考は海も大地もたちどころに飛び越えていく

だが私は思考ではない それを思うと心が萎える
きみと離れて 数百里も飛び越すわけにはいかない
私はおおかたが土と水でつくられているのだから
ただ嘆きながら「時」の気紛れにかしずくほかない
「ソネット44番 二元素 土と水」
関口篤訳編「シェイクスピア詩集」(思潮社)P23

ウィリアム・シェイクスピアにある幻想の中に現実を垣間見る。何て素敵な言葉。
そして、時間の中で開かれ、再び閉じられた音楽の美しさ。
20世紀の美しい音楽を聴いた。

サマーフェスティバル2016
板倉康明がひらく「耳の愉しみ」―ウツクシイ・音楽
2016年8月29日(月)19時開演
サントリーホール
小菅優(ピアノ)
板倉康明指揮東京都交響楽団
・ブリュノ・マントヴァーニ:衝突(2016)(サントリー芸術財団委嘱作品・世界初演)
・マグヌス・リンドベルイ:ピアノ協奏曲第2番(2011-12)
休憩
・ゲオルク・フリードリヒ・ハース:ダーク・ドリームズ(2013)(日本初演)
・クロード・ドビュッシー:「海」―3つの交響的素描(1905)

世界初演となるマントヴァーニの「衝突」は板倉康明に献呈されている。
タイトル通り音楽は激しく、そして混沌。しかしそれは、板倉康明の丁寧かつ正確な棒によって開かれたもので、実に美しい。だから初演作であろうと僕たちを釘付けにするのだろう。
一層素晴らしかったのは小菅優による(作曲者自身がラヴェルの「左手の協奏曲」に範をとったという)リンドベルイの協奏曲。
小菅の超絶ピアノに呆然。音楽は宇宙の最高の形なんだと思った。
前半のカデンツァ直前のピアノと四重奏の見事な応答に感服。その後のピアノ独奏の強烈な、しかも冷たいパッションとエネルギーに火傷をするかと思ったくらい。終盤の圧倒的なカデンツァにも驚いた。複雑な美しさ。素晴らしかった。

休憩を挟み、日本初演となるハースの「ダーク・ドリームズ」。冬の様相を示すこの漆黒の音楽はおどろおどろしく、しかしどこまでも透明で、不安をかき立てる音調を示しながら徐々にひとつになってゆく。いかにも突然の終結は、混沌の内なる調和。

ほかの二つの元素 つまり軽い空気と浄めの火は
私がどこにいようと いずれもきみと一緒にいる
一つは私の思考 もう一つは私の欲望だが
これは二人の間を素早く行ったりきたりする
「ソネット45番 ほかの二元素 空気と火」
~同上書P24

音楽はイマジネーションを喚起する。
どこまでも自由で、どこにでも行ったり来たりできるのだ。
ほぼ100年の時を超え、ドビュッシーが描いた海を見て、そしてまたハースの悪夢を見た。

ところで、プログラムの中で板倉さんが語っておられる言葉に「なるほど」と僕は膝を打った。

だから、今回の公演を子どもたちにも聴いてほしい。というのは、幼稚園や小学校でコンサートをすると、現代音楽のほうが喜ばれることがあるんですよ。モーツァルトのメヌエットではポカーンとしていたのが、リゲティで食いついてきたり。今回の公演をきっかけに、「メンコンよりリゲティが弾きたい」みたいなアブナイ小学生が出てきてくれると嬉しいですね(笑)。
(対談:佐藤紀雄×板倉康明)
~プログラムP28-29

現代音楽を理解するのに視覚はとても重要だと思う。何よりステージに多く触れることだ。

 

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