ケンペ指揮ドレスデン・シュターツカペレのシュトラウス「オーボエ協奏曲」(1975録音)を聴いて思ふ

strauss_orchestral_works_kempe636リヒャルト・シュトラウス没後67年の命日。
最晩年の大作曲家は必ずしも平穏で幸福な日々を過ごせたわけではなかったけれど。

何という透明感!そして何という無心の美しさ!
ここにあるのは諦念といえば諦念だ。しかしながら、意図せず(?)やってしまった行為が戦犯の疑いを受け、挙句に財産も接収され、すべてを失いかけた経験、すなわち固執するものがなくなったときに人間が見る無垢な世界を体現した別次元の世界だといえるのではあるまいか。
そもそも作品成立のきっかけがひとつの偶然の出会いからであり、それがひとりのオーボエ奏者だったこと。

米兵の中には、音楽について話すために来る者もあった。フランス系の名を持つジョン・ド・ランシーは、シカゴ出身の24歳の若者で、ピッツバーグ交響楽団のオーボエ奏者だった。
「私はかなり悲惨な状態の中で作曲家と出会った。食べるものもなく、タバコも石鹸もなかった。私たちGIはできる限りの援助をし、とても感謝された。私たちは長いこと話し合った。―日々のあらゆる問題について、文学について、音楽について。シュトラウスが英語に堪能でなかったので、私たちはフランス語で会話した。
田代櫂著「リヒャルト・シュトラウス―鳴り響く落日」(春秋社)P383

ここでランシーはオーボエ協奏曲の作曲を促したそうだが、シュトラウスの返事は即答でノー」だったという。しかしながら、極限の中で様々な援助を受けたものが、感謝を形にすることができるとするなら自分の能力を、自分のできることを最大限に生かすことくらいしかないだろう。まもなくリヒャルト・シュトラウスはスケッチに入ることになる。

人の命を長らえるのは他でもない「他者貢献感」なんだとあらためて思う。
齢80の大作曲家が最後に行き着いた作品の得も言われぬ美しさに感嘆。

リヒャルト・シュトラウス:
・ホルン協奏曲第1番変ホ長調作品11
・ホルン協奏曲第2番変ホ長調
・オーボエ協奏曲ニ長調
・クラリネット、バスーンと弦楽器のためのデュエット=コンチェルティーノ
ペーター・ダム(ホルン)
マンフレート・クレメント(オーボエ)
マンフレート・ヴァイゼ(クラリネット)
ヴォルフガング・リープシャー(バスーン)
ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1975録音)

自然の音の神々しさ。人の息吹がシナジーを生む。
しばしば言われるように、モーツァルト的な純粋さを秘めた佳曲。とはいえ、あくまでシュトラウス独自のイディオム(歌)に満ちる。第2楽章アンダンテの魔法こそ老練の極致。
また、1947年冬の「デュエット=コンチェルティーノ」の奇蹟!!

11月末、ルガーノのスイス=イタリア放送局のために、クラリネットとファゴットのための二重小協奏曲「デュエット=コンチェルティーノ」のスケッチを終える。翌48年4月に初演されたこの曲に、シュトラウスはアンデルセン童話「王女と豚飼い」のプログラムを忍ばせていたといわれる。クラリネットが王女を、ファゴットが豚飼い(実は王子)を巧みに描き出す。この曲がシュトラウス最後の器楽曲だった。
~同上書P391

第1楽章アレグロ・モデラート冒頭の憧れ!!クラリネットの哀感が実に素晴らしい。
また、第2楽章アンダンテの神秘。ここでのファゴットの、いかにも作曲者の心を投影する抒情がまた美しい。そして、第3楽章ロンドの解放。クラリネットの温かみある響きに感動。

ルドルフ・ケンペの音楽は生き生きとする。
自身の魂と作曲家の魂が錯綜し、ひとつになる様、最高である。

 

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