ロン・ハワード監督 ザ・ビートルズ:EIGHT DAYS A WEEK – The Touring Years(2016)

beatles_touring_yearsベトナム戦争の激化、公民権運動、あるいはJFK暗殺・・・、暗雲立ち込める激動の時代に彼らはひとつの大きな波、祝祭を作り上げた。
なぜかくも人々が熱狂したのか?スクリーンの中で雄叫びを上げる若者たちを客観視しながら、そしてその、音楽すらかき消すほどの金切り声を聴きながら、やっぱり世界はバランスで成り立っていて、熱狂も苦悩もすべてが必要にして必然という形で起こるものなんだと確信した。

ビートルズは間違いなく人々を、人類を幸せにするために登場してきたようだ。
インタビューに応えるウーピー・ゴールドバーグの幸せな笑顔を見て、そう思った。
リチャード・カーティス曰く、そもそもビートルズには「自己憐憫」がなかったという。
彼らは現実を、世界を、今をとにかく楽しんでいたのだと。
決して売れたからそうなったのではないと僕は思う。そうだったから彼らは世界に受け容れられ、一世を風靡どころか、何年も、いや、何世紀も残るであろう普遍的なバンドになれたのである。

しかし、その力があまりに強過ぎたためか自分たちをも消耗させ、そのパワーに飲み込まれてしまった。何という矛盾!何という皮肉。
ここで、あらためて僕たちはビートルズ登場の意義を知るべきだろう。

ビートルズの奇跡のひとコマを鑑賞した。
本当に良かった。
思わず涙が出た。素直に感動した。
ビートルズを語るのに理屈は要らない。

ロン・ハワード監督
ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK – The Touring Years(2016)
ロン・ハワード(監督/プロデューサー)
ナイジェル・シンクレア(プロデューサー)
スコット・パスクッチ(プロデューサー)
ブライアン・グレイザー(プロデューサー)
マーク・モンロー(脚本)
ポール・クラウダー(編集)
ジャイルズ・マーティン(音楽プロデューサー)

当時の人たちが必要としていたのは、知らぬ間に刷り込まれた抑圧の解放だったのかもしれない。今ほど情報が多くない、それこそ国家がどんな風にでもそれをコントロールできた時代に、ビートルズ旋風はあっという間に世界を駆け巡った。どこの都市に行っても彼らは熱狂的に迎えられた。
映画は、歴史から切り取られたワンシーンに過ぎず、もちろんそこには制作側の意図が明確に入り込むため、それをそのまま鵜呑みにするのは危険だが、それでもできるだけ主観をそぎ取り、事実をありのままに伝えようとする意志がはっきりとわかった。

また、ツアー時代を切り取るというアイディアに感心した。
ビートルズが最もホットで、最もリアルで、その反面、最も悩みを抱えていた時期だから、映し出されるすべてが赤裸々で圧倒的だった。
コンサート・ドロップアウトについてリンゴ・スターは言う。

少なくとも僕は、自分のベストが出せなくなっていた。努力はしたけれど、僕にできたのは、いま曲のどこの部分なのか、メンバーがうっすらとでも分かるようにビートを刻み続けることくらいだった。誰かがうなずいたり、なにかを求めるような表情をしているのを見て、「ああ、そこか。わかった」って思うくらいしかできなかった。
~劇場用プログラムP10

実際、後半に上映される1965年8月15日の、ニューヨーク、シェイ・スタジアムでのコンサートの模様を観て、きちんとした音響装置のない中で、あれほどの絶叫をバックにほとんどミスなく完璧に演奏をこなす4人の能力に感動した。リンゴがインタビューで応えるように、自分たちの音はかき消され、まったく聴こえない中、ジョンやポールの腰の振りや足を踏み鳴らす仕草を感じてドラムを叩いていたというのだから、まさに4人は以心伝心、ひとつだったということだ。
嗚呼、素晴らしかった。
ビートルズは僕たちを本当に幸せな気持ちにしてくれる。

ちなみに、今日はジョン・コルトレーンの90回目の誕生日。
コルトレーンを採り上げたかったのだけれど、こんなビートルズを見せられてしまっては・・・。

 

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