アラウ&バーンスタインのベートーヴェン第4協奏曲(1976.10.17Live)ほかを聴いて思ふ

beethoven_bernstein_amnesty_1976665呼ばれたような気がしたので、箱からとりだしたら40年前のちょうど今日、ミュンヘンでのコンサートの模様を収録したものだった。ベートーヴェンという気分でもなかったが、聴き出したら止まらなかった。

ロマン・ロランによって「傑作の森」と称されたその頃は、ベートーヴェンの創作力が一気に花開いた時期。それはまさに彼が使命を悟り、宗教を超え、おそらく天と通じる点を知ったときと一致するのだろう。何より突然変異の如く音楽は一層革新的になり、同時に解放的で自由な様相を獲得した。
例えば、歌劇「レオノーレ」、あるいは「フィデリオ」。表向き、夫を救出する夫婦愛を描くが、その実、人類の真の解放を説く啓蒙オペラ。(賛否両論あれど)これほど崇高で感動的な作品はなかろう。ここで奏される「レオノーレ」序曲第3番は、レオノーレとフロレスタンの歓喜を描き出すようにエネルギッシュかつ有機的な音調を醸す。
そして、クラウディオ・アラウを独奏に迎えたト長調協奏曲は、第1楽章アレグロ・モデラートから実に瞑想的で優しい音。重厚過ぎず軽過ぎず、音楽はまさに理想的なテンポとダイナミクスで進んでゆく。演奏者の計算は一切感じられず、ただひたすらベートーヴェンが書いた音楽をありのままに再現しようとする意志。なるほど、確かにこの協奏曲のモチーフは、悟りを開いた証の「運命の4つの音」だ。
また、第2楽章アンダンテ・コン・モートの哀惜の調べは美しく、アタッカで続く終楽章ロンドの愉悦に思わず笑みがこぼれる(指揮台で飛び跳ねるバーンスタインが想像される)。何というピアノの愛らしさ(アラウはもっとゴツゴツしたイメージだけれど、この時の演奏は実に可憐)。

ベートーヴェン:
・「レオノーレ」序曲第3番作品72a
・ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
・交響曲第5番ハ短調作品67
クラウディオ・アラウ(ピアノ)
レナード・バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団(1976.10.17Live)

そして、凝縮美の第5交響曲。
バーンスタインは随分リラックスして、相当客観的に音楽に対峙しているよう。赤裸々な感情表現は少なく、音楽の流れも常識的で遊びや踏み外しはほとんどない。ベートーヴェンの第5番をじっくりと堪能できる名演と言えばそうだが、逆に平凡な演奏であるということもできる。確かに凡演だとする批評も多く目にするが、しかし僕はここにこそオーケストラとの信頼関係のもとに生み出された自然体のベートーヴェンがあるように思う(何と大らかな終楽章アレグロ!それこそ昇天するようだ)。
ちなみに、晩年のインタビューで、バーンスタインはかく語る。

オーケストラ指揮者は、単に自分自身の可能性だけではなく、自分の指揮するオーケストラの可能性をもつねに意識している厳格な音楽家でなければなりません。良いオーケストラ指揮者、あるいは、お望みなら、偉大なオーケストラ指揮者であるためには、指揮台に上がり、本当に望んでいるものを決してもたらすことのないオーケストラ奏者に文句を言ったり、わめいたり、罵ったりし始めるだけでは十分ではありません。オーケストラに、演奏についての自分のヴィジョンを推しつける前に、オーケストラを理解することから始める方が良いのです。
バーンスタイン&カスティリオーネ著/西本晃二監訳/笠羽映子訳「バーンスタイン音楽を生きる」(青土社)P124

これこそスティーヴン・E・コヴィー博士の提唱する「7つの習慣」の第5番目の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」に等しい。納得だ。

 

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2 COMMENTS

雅之

ご存じでしょうが、「ゾーンに入る」にはふたつの意味がありまして、
ひとつはあの映画(笑)。

もうひとつはスポーツ用語。

http://kokoromanual.com/zone.html

http://re-sta.jp/enter-the-zone-529

オーケストラの各奏者全員を「ゾーンに入れる」ことができるのは、迷指揮者ですね。

オーケストラの各奏者全員を「ゾーンに入れる」ことができるのが、名指揮者ですね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

もちろん両方の意味を存じ上げております。
それにしても迷指揮者と名指揮者の対比、いつもながらお見事です!

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