ベロフ&アバドのラヴェル「左手のための協奏曲」(1987.11録音)を聴いて思ふ

ravel_concerto_argerich_abbado_lso左手だけのための協奏曲はまったく違います。それは多くのジャズの効果を含んでいますし、書法はそれほど軽くはありません。この種の作品では、両手のために書かれたパートよりもテクスチュアが薄くないという印象を与えることが大事です。私は同じ理由で、より重々しい種類の伝統的な協奏曲にずっと近い様式を用いました。
(ラヴェルのカルヴォコレッシ宛手紙)
アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」(音楽之友社)P133

モーリス・ラヴェルの最高傑作。作曲者自身の挑戦欲をかき立てた、パウル・ヴィトゲンシュタインからの委嘱。この不屈のピアニストが第一次大戦で右腕を落しているという事実が象徴的。
とても5本の指だけで演奏しているとは思えない音楽性。難曲である。ほとんど反戦を意図したのかどうなのか、自身がそれまで獲得してきたあらゆるイディオムを駆使し、それを見事に統合する力量。確かに作品は単一楽章による明確なバランスを持ち、極めて美しい。

混沌とした世界が一瞬で入れ替わるかのように動く。世界は無常であり、そんな中、僕たちは何より変革を怖れないこと。激動だ。

ラヴェル:
・ピアノ協奏曲ト長調(1929-31)(1984.2録音)
・左手のための協奏曲ニ長調(1929-30)(1987.11録音)
・1幕のバレエ「ジャンヌの扇」のためのファンファーレ(1927)(1987.11録音)
・古風なメヌエット(1895/1929)(1987.11録音)
・組曲「クープランの墓」(1914-17/1919)(1987.11録音)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ミシェル・ベロフ(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団

平和の歌。ここでのミシェル・ベロフの演奏は、感情的なものをできるだけ排し、極めて知的に、しかも聴く者の魂を鼓舞するかのように果敢に前のめり。ラヴェルの挑戦的な音楽と共鳴する名演奏。それにしても中間部アレグロにある愉悦は来るべき未来への祝福のよう。
1933年1月17日、パリ初演を聴いたアンリ・ブリュニエールは次のように証言する。

私のように、ラヴェルのあらゆる業績を賞賛している者たちでさえ、これほどたくさんのピュロスの勝利(引き合わない勝利)にある種の失望を感じる。「ダフニス」の作曲者は、彼の頭脳のみがこれらのすばらしい音の幻影を創り出したという伝説を広めるのではなく、彼が心に秘めているものをもっと頻繁に私たちにのぞかせてくれることもできたであろうにと思ってしまうのだ。曲の冒頭から、私たちはラヴェルがめったに見せてくれることのない世界に投げ込まれる。
~同上書P135

ジャズ的なもの(すなわちアメリカ的なもの)に対する嫌悪なのか、古い人々は、たとえ賞賛者であろうと新たな挑戦には懐疑的だ。しかし、作曲から80余年を経た現代の僕たちから俯瞰すると、これほど未来の統合を見据えた作品はない。
モーリス・ラヴェルは天才である。

 

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2 COMMENTS

雅之

この曲も過去結構コメントし書き尽くしたもので、何か別に書くことないかなあ?

そういえば、以前シューマンを演奏する映像探してたら、こんなのがあったっけ!

https://www.youtube.com/watch?v=YBqwoXwC_Y0

左利き用の、鍵盤の配置が左右反転していて、左側が音が高く、右側が低くなっているピアノ。

http://chrisseed2014.wixsite.com/lefthandedpiano

普通のピアニストが左利き用のピアノで「左手のための協奏曲」を弾いたら難易度が一段と上がる?

でも、こんなピアノ、本当に必要なんでしょうかねえ(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様

左右反転のピアノなんてあるんですね!初めて知りました。
まぁ、おっしゃるように実用性は低いと思います。(笑)

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