大野和士指揮都響第818回定期演奏会Cシリーズ

tokyo_20161127694前半のアンコールで奏されたブーレーズの「ノタシオン」の透徹された響きこそピエール=ローラン・エマールの真骨頂。「両手で」とあえて聴衆を笑わせたそのユーモアを吹っ飛ばすほどの凝縮された美しさ。
このアンコールといわば相似の関係にあるようなラヴェルの左手のための協奏曲は、先頃触れた舘野泉さんのそれとはまるで正反対の名演奏で、僕は時を忘れて華麗かつ色彩豊かな音楽に没頭した。
それにしても東京都交響楽団のアンサンブルといい独奏といい極上。一切の弛緩なく、どの瞬間も輝かしく、中間部アレグロの管弦楽の突然の爆発と行進曲の妙。そして、味わい深いカデンツァの静けさとその後のクライマックスに向かう音楽の表現力に舌を巻いた。完璧である。

一方、アルバン・ベルクの「アルテンベルク歌曲集」にみる壮絶かつ複雑な音色にも感動。20世紀初めの無調の音楽にこれほどの色気があるとは驚いた。実演ならではの空間の拡がりと時間の流れを見事に感じさせる絶品。やはりベルクは天才。天羽明惠の重心の低い嫋やかで透き通った声に導かれる各曲はいずれもが短い作品だが、特に第3曲「きみは宇宙の果てを瞑想し、見はるかし」での最後のフレーズ”du noch sinnend hinaus!(見はるかしている!)の何とも幽玄な歌唱に思わずのけ反った。どの瞬間も情感こもった歌は、アルバン・ベルクの不意の妖艶さを美しく言い当てる。

きみはいまもなお宇宙の果てを瞑想し、
見はるかしている!
(訳:喜多尾道冬)

大野和士の指揮は相変わらず精妙で巧い。

東京都交響楽団第818回定期演奏会Cシリーズ
2016年11月27日(日)14時開演
東京芸術劇場コンサートホール
ピエール=ローラン・エマール(ピアノ)
天羽明惠(ソプラノ)
矢部達哉(コンサートマスター)
大野和士指揮東京都交響楽団
・ベルク:アルテンベルク歌曲集作品4
・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
~アンコール
・ブーレーズ:ノタシオンⅠ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅱ
休憩
・マーラー:交響曲第4番ト長調

第1楽章から愉悦に溢れ、最高の1時間。第3楽章「平安に満ちて(ポコ・アダージョ)」などはいつまでも浸っていたい絶美の瞬間多々。壮大なクライマックスの直後、下手から徐にソプラノが登場、彼女が舞台中央に辿り着くと同時に曲は締められ、ほぼアタッカで終楽章「きわめてなごやかに」へ。この天上を讃える歌の可憐さは実演で一層際立つ。後奏のハープとイングリッシュ・ホルンの静けさに感涙。

踊っては とんで
跳ねては うたう
聖ペテロさまが こちらをじっと見ている
(訳:舩木篤也)

マーラーの第4交響曲は僕にとって青春の1曲。
繰り返し聴いた高校生のあの頃の記憶が脳裏で明滅。決して冗長でなく、分裂気味でもないこの作品はやっぱり傑作だと痛感。その指揮ぶりから大野の十八番なのだと思う、とても見通しの良い名演奏だった。マーラーにおいてはそれぞれの楽器の独奏が肝になるが、それにしてもオーボエ(広田智之)の巧さ、あるいはトランペット(岡崎耕二)の鮮烈な音が光っていた。

嗚呼、それにしても目に見えないものを語るのは難しい。音楽の感動を形に残すことも同じく。心に響いたその瞬間を言葉に変換する時に、表現のあまりの陳腐さに時々情けなくなる。

 

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3 COMMENTS

雅之

>嗚呼、それにしても目に見えないものを語るのは難しい。音楽の感動を形に残すことも同じく。心に響いたその瞬間を言葉に変換する時に、表現のあまりの陳腐さに時々情けなくなる。

お疲れ様です(笑)。でもそれは、吉田さんや宇野さんとて同じだったことでしょう。

・・・・・・音楽というのはそのくらい高度な精神活動なんですよ。音楽に比べると批評というのは数段低いところにあるものだと思います。言葉で説明するのは難しい。ぼくは不可能に近いことを一生懸命やっているなあと思うわけです。・・・・・・

「音楽と音の匠が語る 目指せ! 耳の達人」 (ONTOMO MOOK)  P15 宇野功芳さんの発言より

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岡本 浩和

>雅之様

なるほど宇野さんもそんなことを書かれていましたか!
ちなみに、僕のは批評でも何でもないですから、もっと低いところにあるのですが・・・。

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