N響第1851回定期演奏会デュトワ指揮 ビゼー:歌劇「カルメン」(演奏会形式)

bizet_carmen_dutoit_nhk_20161211703歌手が粒揃い。
ケイト・アルドリッチのカルメンも、マルセロ・プエンテのドン・ホセも、イルデブランド・ダルカンジェロのエスカミーリョも、そしてシルヴィア・シュヴァルツのミカエラも本当に素晴らしかった。
もちろんデュトワ指揮するNHK交響楽団の演奏は最高。何よりデュトワが棒を振ると、土臭い音楽が見事に洗練される。実にエスプリの効いた「カルメン」。全編通じて一切の無駄のない音楽。そして、物語を堪能した。

出番は少ないが、僕は清楚で温和なミカエラが好きだ。
今日のシュヴァルツの想いのこもった歌唱はとても美しかった。

待って、言うから。
あたしが預かったものを あなたに渡すわ。

お母さまがね いっしょに教会を出るとき
あたしを抱いてこう言ったのよ。
町まで行っておくれでないか、
道は遠くない、ゼビーリャに着いたら、
うちのせがれのホセをさがしておくれ・・・

そして こう言っとくれ 母さんが
夜も昼もあの子のことを思っていると。
(対訳:安藤元雄)

第1幕、ドン・ホセとの二重唱「聞かせてくれよ、おふくろの話」での、愛らしくも優しいシュヴァルツの歌声に僕は感激した。あるいは、第3幕での決意を込めたアリア「何が出たって怖くないわ」での、内なる葛藤の表現の素晴らしさ。彼女の歌に特別なものを感じたのは僕だけではないように思う。終演後のカーテンコールで、シュヴァルツが登場した際の一際大きな拍手喝采がそのことを物語る。

なにが出たってこわくないわ、
大丈夫 平気だってば
でも から元気を出してもだめ、
ほんとうは こわくて死にそう・・・
こんな淋しい場所へ ひとりきり
たったひとりで こわいわ、でもこわがっちゃいけないの、
どうぞ勇気をおさずけ下さい、
どうぞお守りください 神さま!
(対訳:安藤元雄)

嗚呼、ミカエラよ・・・。

N響創立90周年記念
NHK交響楽団第1851回定期演奏会
2016年12月11日(日)15時開演
NHKホール
・ビゼー:歌劇「カルメン」(全4幕・演奏会形式)
ケイト・アルドリッチ(カルメン)
マルセロ・プエンテ(ドン・ホセ)
イルデブランド・ダルカンジェロ(エスカミーリョ)
シルヴィア・シュヴァルツ(ミカエラ)
長谷川顕(スニーガ)
与那城敬(モラーレス)
町英和(ダンカイロ)
高橋淳(レメンダード)
平井香織(フラスキータ)
山下牧子(メルセデス)
新国立劇場合唱団(合唱指揮/冨平恭平)
NHK東京児童合唱団(合唱指揮/金田典子)
篠崎史紀(コンサートマスター)
シャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団

「カルメン」という指折りの作品を残したジョルジュ・ビゼーは、仮にこの作品しか残さなかったとしても後世に名を残しただろう。少なくとも物語の起伏と見事に同期する音楽を、美しくも劇的な旋律を生み出したことだけで歴史的快挙。
フリードリヒ・ニーチェの見解も、そして三島由紀夫の嗜好もその意味では正しかったと言える。
しかしながら、ファム・ファタル、カルメンの、逐一ゲーム的な、即ち背面のネガティブな意図を伴った言動に関しては正直今の僕には辛い。悲しみどころか憎悪感すら覚える不始末。嗚呼、言葉がない。

 

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3 COMMENTS

雅之

ビゼーの歌劇「カルメン」が1875年3月3日、パリのオペラ=コミック座で初演された4日後、ラヴェル(1875年3月7日 – 1937年12月28日)が生まれ、ラヴェルが死ぬ前月の1937年11月21日、歌劇「カルメン」を楽想に忍ばせた、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番がレニングラードにてムラヴィンスキー指揮で初演され、やがてショスタコはラヴェル「ボレロ」のパロディを含む交響曲第7番を発表し、歌劇「カルメン」が初演されラヴェルが生まれた100年後にショスタコーヴィチ(1906年 – 1975年8月9日)が亡くなったという、「因果はめぐる糸車」の巻の一節でございました。ペペんぺんぺん!!

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雅之

「カルメン」初演のぴったり3ヶ月後にビゼー(1838年 – 1875年6月3日もしくは4日)は亡くなっているので、ビゼー没の100年後にショスタコが亡くなったということでもありますね。

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