フィッシャー＝ディースカウのヴォルフ「アイヒェンドルフ歌曲集」（1960.4録音）ほかを聴いて思ふ

1年で昼の一番短い日にフーゴー・ヴォルフ。
暗い情念たぎる音楽と、明朗快活、清澄な歌詞と、そしてそれを極めて知的に表現する歌手のコラボレーションがある意味アンバランスで、それゆえに実に面白い。
第1曲「友人」で、ヨーゼフ・カール・ベネディクト・フォン・アイヒェンドルフは人生において苦悩や挫折の必要性を説く。
人生の深淵を知れと。フィッシャー＝ディースカウの歌唱は相変わらず理知に富む。
わずか50秒に満たない第6曲「兵士Ⅱ」での性急なヴォルフの音楽は、聴く者にまでも「死の恐怖」を植え付ける。

思い切って逃げ出そう、
後ろから夜の闇を抜けて足音が聞こえてくる。

また、第12曲「郷愁」にある、劇的かつ開放的な音楽の美しさ。ヴォルフは自然をことのほか愛でるのだ。

ナイチンゲールの鳴き声も聞いていたい、
恋人の戸の前でも小鳥たちが歌っていた。

朝、それが僕の喜び！
その静かな時間に僕は登る
はるか遠くの一番高い山へと、
そしておまえに挨拶を送るんだ、ドイツよ、心の底から！？

ヴォルフ：
・アイヒェンドルフ歌曲集（抜粋）
ディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウ（バリトン）
ジェラルド・ムーア（ピアノ）（1960.4.14-20録音）
・メーリケ、ゲーテ、ケルナーの詩による6つの歌曲～第3曲ビーテロルフ（作詞：ヨーゼフ・フィクトル・フォン・シェッフェル）
・一晩中（作詞：ユリウス・カール・ラインホルト・シュトゥルム）
・ハイネ・シェイクスピア、バイロンの詩による4つの歌曲～第1曲「何処に安らぎの地を見出すのだろう」（作詞：ハインリヒ・ハイネ）
・ロベルト・ライニックの3つの詩～第2番朝（ロベルト・ライニック）
・ハイネ、シェイクスピア、バイロンの詩による4つの歌曲～第2曲ろばになったボトムの歌（作詞：ウィリアム・シェイクスピア）
・ロベルト・ライニックの3つの詩～第1番「職人の歌」（作詞：ロベルト・ライニック）
・6つの歌曲～第6番休むのだ、休むのだ（作詞：ユスティヌス・ケルナー）
・ミケランジェロの詩による3つの歌曲（作詞：ミケランジェロ・ブオナローティ）
ディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウ（バリトン）
ジェラルド・ムーア（ピアノ）（1959.4.11-12録音）

ロベルト・ライニックの「朝」での歌唱の巧さは言語を絶する。
あるいは、シェイクスピアの「ろばになったボトムの歌」での声色を変えての歌はフィッシャー＝ディースカウならではの真面目な剽軽（？）を思う。絶妙だ。

暗澹たるイメージのヴォルフの音楽にあって、生きることの喜び、そして未来への希望を感じさせる若きディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウの歌。
極めつけは、作曲者最後の作品である「ミケランジェロの詩による3つの歌曲」！！
第2曲「生あるものはすべて滅ぶ」の（ショスタコーヴィチにも通ずる）見事な厭世観！
そして、第3曲「私の魂は待望の神の光を感ずる」での沈潜する悲しみは、モーツァルトのそれの如く疾走し、涙を禁じ得ない。

フーゴー・ヴォルフの音楽にあるのは、じめじめした抑圧と、その解放から生ずる爆発だ。その対比が美しい。

※太字歌詞は「ヴォルフ歌曲対訳集」から引用。

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