カンブルラン指揮読響第600回名曲シリーズ

yomikyo_2017012574015号館のエレベーターで数人の外国人と乗り合わせた。言葉はフランス語。中に年配の日本人女性がいらしたが、実に流暢に言葉を操り、その場に溶け込んでおられた。フランス語のやるせない響きの裏にある色気に、わずか十数秒の時間だったけれど、僕は妙に惹かれた。明らかにコミュニケーションを分断する言葉の不思議。しかし、そういうニュアンスが間違いなく音楽にもあるのに、音の連なりになった瞬間に感じるシンパシーというのは実に興味深い。詩を超え、音楽というものがあるのだと思う。

今宵、「フランス音楽の精華」をテーマにしたコンサートに触れた。
世紀末の退廃とはいえない、大袈裟なくらい絢爛な作品たちに痺れた。
ドイツ音楽と一線を画する、決して堅牢ではない柔軟な世界観の音楽。音は言葉以上にものを言うとでも表現しようか、一瞬なりとも弛緩なく、僕はひとときの魔法の世界に遊び、夢を見た。

読響第600回名曲シリーズ
2017年1月25日(水)19時開演
サントリーホール
新国立劇場合唱団(女声合唱)
冨平恭平(合唱指揮)
長原幸太(コンサートマスター)
シルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団
・デュカス:舞踊詩「ラ・ペリ」
・ドビュッシー:夜想曲
休憩
・ショーソン:交響曲変ロ長調作品20

ポール・デュカスの「ラ・ペリ」にある、神話と人生の重なり。冒頭のファンファーレの巧さは読響奏者の真骨頂。何という深みと厚みのある響きであることか。また、揺れ、うねる旋律はワーグナーを髣髴とさせる色香。堪らない。
そして、型にはまることのない、およそ人間が創り出した最も美しいであろう音楽、クロード・ドビュッシーの「夜想曲」。第1曲「雲」の静けさ、第2曲「祭り」の動性、あるいは第3曲「シレーヌ」の筆舌に尽くし難い優しさ。ヴォカリーズの女声合唱にみる崇高美に涙する。これこそ情景、心象を見事に描き切る音画。何より聴く者の恋心をくすぐる彼の音楽は、他の誰からも受け継がず、また他の誰にも引き継がれない、モーツァルト同様の唯一無二。金管群の素晴らしさに舌を巻く。

休憩を挟み、エルネスト・ショーソンの交響曲に金縛りに遭った。何よりシルヴァン・カンブルランの緻密さ、類い稀な音楽性。動きと連動するように、指揮棒から有機的な音楽が紡がれる。第2楽章トレ・ランは何だか哀しかった。また、終楽章アニメはその旋律が脳みそを離れないくらい心を捉えた。

僕はこれまでの人生でフランスを訪れたのは1度きり。
それもトランジットでたった一日過しただけなので、ほぼ何も記憶がない。
想い出を呼び覚まさせるとでもいうのか、フランス音楽の根底に流れる美に感化された。
カンブルランの熱狂的な棒にあらためて感動した。

 

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2 COMMENTS

雅之

実演、いいですねえ。
ショーソン:交響曲について、古き良き昭和時代に、諸井誠が、確か面白いことを書いていたのを高校の時に読んだことがあるはずと記憶していて、探したらそれを見つけたのでその一部分を紹介しておきます。

・・・・・・1855年、五並びの年に生まれたショーソンが19世紀のどんづまり九並びの99年、四並びの44歳で事故死したのには、何か宿命に似た悲劇的な因縁のようなものを感じるのである。それも自転車事故。自動車事故がもとで亡くなったラヴェルを思い出すが、機械文明の発達がもたらした一つの悲劇といえよう。

ラヴェルといえば、ショーソンの代表作《詩曲》は、明らかにラヴェルの傑作《ツィガーヌ》のルーツであって、フランスの二大巨匠、ドビュッシーとラヴェルのバックボーンには、マスネやフォーレ、デュパルクなどに先立って、サン=サーンスやビゼー、ダンディーなどと共にショーソンの存在を忘れることはできない。

ところでショーソンの代表作といえば、《リラの花咲く頃》など歌曲とか、前述のヴァイオリンとオーケストラのための有名な《詩曲》などなのであって、決して交響曲ではない。その点では、彼もまたビゼーやサン=サーンス等、フランスの浪漫派作曲達の例に漏れない。そもそも、フランス人にとって、交響曲が作曲家のメイジャー・コースであったことはないのだ。とはいえフランスの交響曲の魅力には捨てがたいものがある。・・・・・・諸井誠 著「交響曲名曲名盤100」(音楽之友社 昭和54年6月10日 第一刷発行)P150

https://www.amazon.co.jp/BOOKS-28-%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E5%90%8D%E6%9B%B2%E5%90%8D%E7%9B%A4100-Books/dp/427635028X/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1485404467&sr=1-2&keywords=%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E3%81%AE%E5%90%8D%E6%9B%B2%E5%90%8D%E7%9B%A4

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岡本 浩和

>雅之様

諸井さんらしく目の付けどころが違いますね。
確かに不思議な縁があるように思えます。
それと、諸井さんがおっしゃるように、フランスの交響曲はメジャーコースでないにせよ、捨て難い魅力がありますよね。王道ですが、サン=サーンスの「オルガン付」などはわかっていても感動させられますし・・・(笑)

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