スロー・キャリア

piazzolla_live_in_wien.jpg将来について不安を抱えている若者って多いのだろうか?この先自分のキャリアはどうなるのだろうか・・・?自分は何がしたいのだろうか・・・?僕はいつもセミナー中、そういう質問に対して次のように答える。
「やりたいことを探しても無駄だよ。今自分にできることしかできないから。」

ヤクルトホールでの慶應義塾大学大学院教授高橋俊介先生の講演を聴いた。題して「スローキャリアのすすめ」。昨秋拝聴して気に入ったので今回も参加したのだが、2時間ぶっ通しでしゃべり続ける先生の話はともかく面白い。その全てを消化し切れていないのでここで語るのは難しいが、先生の言う「スローキャリア」とは、「目的合理性、上昇志向、見た目の効率性、計画と実行の分離という産業化社会のパラダイムを、キャリアの世界に持ち込むことへのアンチテーゼ」だということだ。短期的な視野に立てる一般の仕事レベルは計画と実行が分離できる-つまり、管理可能だということだが、ことキャリアに関しては計画通りにいくはずもなく、管理など不可能だということを強調しておられた。そう、何十年という長期であることと、様々な人々か絡む以上自分自身が計画した通りに進むわけがないということだ。自分が計画したとおりに世の中が動いてくれるなら話は別だが(例えば、昨秋のリーマン・ブラザーズの破綻などもちょっと前なら誰も予想しなかっただろう)。そもそも若いうちに自分の適職がみつかるわけがないのだと。よって何事もまずは経験ありきで、焦らず「自分らしさ」を追求することが大事なのだと。納得・・・。

「自分らしさ」の基本であるモティベーション。
1.コミットメント系のモティベーションは、達成動機、影響欲、賞賛欲、闘争心に長けて、創業初期などはぐいぐい周囲を引っ張っていくが、いつの頃からか初心を忘れてダークサイドに堕ちてしまうのだと。先生はそれをダースベーダー化と称されていた。納得。
2.リレーションシップ系のモティベーションは、社交欲、理解欲、伝達欲、感謝欲に長けて、人に信頼される要素が強いが、ともすると「ただの良い人」になってしまいがちなので要注意。そう、地に足をつけて、お金儲けもちっきりとできないと話にならないのだと。納得。
3.エンゲージメント系のモティベーションは、抽象概念志向、徹底性、切迫性、自己管理欲が強く何でも自分でやらないと気が済まないところが良くもあり悪くもあるところ。これだとマネジメントはできないらしい。そりゃそうだ。

いずれにせよ、「自分らしさ」に模範はない。一番自分らしく、自然な形に戻ればいい。

Astor Piazzolla:Live in Wien

1983年10月、ウィーンのコンツェルトハウスでのライブ録音。ピアソラだって自身のキャリアに悩んでいた時期がある。タンゴに限界を感じ、クラシックの作曲家を目指そうとパリに渡りナディア・ブーランジェに師事するも、師匠にタンゴこそが貴方の生きる道と諭され、タンゴの世界に新しい風を吹き込むことの重要性に気づく。さすがナディア・ブーランジェ!!既存のものに乗っかろうとするのは簡単だ。そうではなく自分で何かを始めろと僕は声を大にして言いたい。もちろんそれは既存のものへの「アイデアの付け加え」で良い。それが「革新」へとつながり、そして自分自身のキャリアへと繋がっていくのである。できることを徹底して続ければ、自分らしさが必ず生まれてくるものだ。ピアソラのモダン・タンゴがそのことを十分に語ってくれている。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ピアソラのご紹介のCDは最高ですよね。私も大好きで、一時よく聴いていました。
それにしてもナディア・ブーランジェという人は、教え子の錚々たるたる名前を見るだけでも、大した名教師だったものだといつも感心します。
>既存のものに乗っかろうとするのは簡単だ。そうではなく自分で何かを始めろと僕は声を大にして言いたい。もちろんそれは既存のものへの「アイデアの付け加え」で良い。それが「革新」へとつながり、そして自分自身のキャリアへと繋がっていくのである。
「芸術家が使用する絵の具のチューブは製品であり既製品であるのだから、世界中のずべての油絵は《手を加えた既製品》であり、アッサンブラージュ(assemblage=寄せ集めの立体作品)だと結論づけなければならない」マルセル・デュシャン
ニューヨーク・ダダの中心的人物であったデュシャンの超有名な代表的作品に、『泉』(1917)がありますよね。
http://kcfac.kilgore.edu/aafh/ch19.html
既製品のただの便器、ただそれだけを使用しても、センスとタイミングよく(それが重要かも)自分のアイデアを付け加えて提示すれば「革新」につながり、そしてキャリアへとつなげることも出来るんですよね。この「作品」を観るたびに、そんなことを痛感します。
やはり、まず行動することが大切ですかね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ナディア・ブーランジェはほんとにたいしたものですよね。
コメントいただいたデュシャンの言葉、これはとても意味深いです。
>センスとタイミングよく(それが重要かも)自分のアイデアを付け加えて提示すれば「革新」につながり、そしてキャリアへとつなげることも出来る
そうなんです!
昨日も話を聴いて納得したのですが、今の若者は焦りすぎてると先生はおっしゃってました。
あるとき先生のところに一人の学生が「大学を卒業したらすぐにMBAを取得しようと思うんですが、海外か国内かどちらがいいと思いますか?」という相談に来た。先生は「MBAというものは数年仕事を経験してから取得するから価値があるものだし、社会経験ないうちから学んでも会得しきれないよ」と諭したところ、その学生は「先生、それで間に合うんですか?」と聞いてきたというのです。学生曰く、今の世の中30歳までにある程度のキャリアを積むべく相応の準備をしておかないと勝ち組になれないんじゃないですか、と。
先生は言っておられました。「そもそもキャリアって勝ち負けか?自分がどんなに準備、計画しても世の中は思った通りに進んでくれない。キャリア形成は予定通りになんていかないものだ。それよりも与えられた仕事に創意工夫をして自分なりのスキルアップ、キャリアアップをその都度考えるしかないのだ。今やっていることは必ず将来の何かに役に立つから」というようなことを。
自分を振り返ってみてもそうです。学生の頃に何がしたいなんて全くわからなかったし、10年前に今の自分のポジションすら想像していませんでした。そんなものですよね。
>やはり、まず行動することが大切ですかね。
どんなときも焦らず「自分らしく」工夫をすることが大切だと思います。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む