「篠原眞作品集―和洋の音楽的融合に向かって」(1986&1994録音)を聴いて思ふ

篠原眞の音楽に出逢った。
武満徹が西洋と東洋の統合を図ろうとすればするほど分断を余儀なくされた方法を超えんと彼は尽力するようで、東洋の、というより邦楽器を使用しながらの果敢なその西洋的アプローチによる新しい音楽は不思議な音色を持ち、それでいて決して聴き難くはない懐かしさと東洋的深遠さを帯びたものになっている。
プログラム・ノートにおいて、作曲者はこう語る。

圧倒的な勢いで普及する洋楽と長い歴史に根づいて生存を維持する邦楽―日本の伝統音楽すべてを含めた意味で―とが共存しているのが、今日の日本におけるシーリアスな音楽の状況であると思う。これら二つの音楽はたがいに著しく異なっているため、常にはっきり分けて扱われてきた。
創作の面においても同じ区別が行われている。その区別を無くそうとする試みもあるが、それは単に両者を並置するに過ぎない。結果は両者の本質的な差異が一層明瞭になるだけである。あるいは、少数の和洋楽器を組み合わせて、邦楽器に洋楽の語法を当てはめるような形をとる場合が多い。
こうしたやり方ではない、洋楽と邦楽がより深く交わっている作品、両者がそれぞれの本質を保ちながら共に調和した全体を形成するような新しい現代音楽を作ることはできないものであろうか。
この困難な問題に対して、私なりの答を示すことを主な目的として、このCDは構成されている。
Camerata30CM-375ライナーノーツ

篠原眞は真実を見抜いているように思った。
世界がひとつになる夢をまずは音楽で成してみようと、そしてそれは日本人の手によって為すべきことであると知っているのではないかと思うくらい。

不穏な今の時代にあって、決して暗いニュースばかりでない。それこそ夜明け前が一番暗いと言われるように、人類の目覚めの兆候は間違いなくある。例えば、昨年の合衆国前大統領バラク・オバマ氏の広島でのスピーチ。

全ての人のかけがえのない価値、全ての命が貴重であるという主張、われわれは人類という一つの家族の仲間であるという根源的で必要な考え。われわれはこれら全てを伝えなければならない。
だからこそ、われわれは広島に来たのだ。われわれが愛する人々のことを考えられるように。・・・
世界はここで永遠に変わってしまったが、今日、この都市の子どもたちは平和の中で日々を生きていくだろう。なんと貴重なことだろうか。そのことは守る価値があり、そして全ての子どもたちに広げる価値がある。
それは私たちが選ぶことのできる未来だ。その未来では、広島と長崎は核戦争の夜明けとしてではなく、道徳的な目覚めの始まりとして知られるだろう。

決して斜に構えて捉えることなかれ。唯一の被爆国である日本の民が世界をひとつにするべく行動を起こす時期が到来しつつあるということだろう。

篠原眞作品集―和洋の音楽的融合に向かって
・三味線のための「流れ」(1981)(1994.3.5Live)
・尺八奏者とハーピストのための「求道B」(1973)(1994.3.5Live)
・メゾソプラノと12人の楽器奏者のための「たびゆき」―芭蕉の俳句による―(1984)(1994.3.5Live)
・十七絃のための「十七絃の生まれ」(1981)(1986.7.23録音)
・8人の邦楽器奏者と8人の洋楽器奏者のための「コゥオペレーション」(協力)(1990)(1994.3.5Live)
西潟昭子(三味線)
三橋貴風(尺八)
木村茉莉(ハープ)
小川明子(メゾソプラノ)
中川昌巳(フルート)
辻功(オーボエ)
高橋知己(クラリネット)
岡崎耕治(ファゴット)
大和田浩明(ホルン)
北村源三(トランペット)
村田厚生(トロンボーン)
永曽重光(打楽器)
植木三郎(ヴァイオリン)
中小路淳美(ヴィオラ)
勝田聰一(チェロ)
小室昌広(コントラバス)
菊地悌子(十七絃)
赤尾三千子(笛)
八百谷啓(ひちりき)
石川高(笙)
福永千恵子(箏)
上田純子(琵琶)
吉澤昌江(胡弓)
渋谷淑子(ピアノ)
小松一彦(指揮)

沈潜する「求道B」の、尺八とハープの見事な融け合い。弦が弾け、また尺八が破裂する音に、そして重みのある打楽器の音に、風と大地の力を想像する。これこそまさに調和。
さらに、21分超に及ぶ「コゥオペレーション」の、一見水と油のような西洋と東洋の楽器同士が、時間の経過とともに互いに影響し合い、大いなる歓喜を迎える瞬間を聴き及ぶにつけ、篠原眞が試みんとした新しい現代音楽が見事に創出されていることが垣間見え、実に興味深い。
音楽の素晴らしさ。こういうものは是非とも実演で触れてみたい。

 

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2 COMMENTS

岡本 浩和

>雅之様

>いわばハイブリッド化の試みです。

なるほど言い得て妙ですね。
それにしてもこれほど興味深い音盤を推薦いただきありがとうございます。
もしもご紹介いただかなかれば一生手に取ることはなかったと思います。

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