ロジェ&デュトワ指揮モントリオール響のラヴェル協奏曲集(1982.6録音)を聴いて思ふ

シャルル・デュトワのモーリス・ラヴェルは徹頭徹尾素敵だ。
協奏曲でのオーケストラの、飛び跳ね、時に阿鼻叫喚する金管群の、それでいて決してうるさくならない演奏の妙。同時に、その色彩豊かな管弦楽に追随し、見事な対話を魅せるパスカル・ロジェのセンス満点の独奏ピアノ。旋律が浮沈し、音楽は揺れ、音調は常に崇高。この刺激は何ものにも代え難い、まさに音楽を聴く愉悦。

人間とはそもそも怠け者なのである。
生活に、そして仕事にただ慣れることは堕落そのもの。そういうルーティン化を避けるために常に適度な緊張に強いられる方がよほど幸福だ。

創造の、そして再生の緊張と弛緩が交錯し、ラヴェルの音楽はどの瞬間も新しい。
特に、20世紀フランス音楽の美しさは、フランス語独特の語感と対を成す。あの虚ろで気怠い雰囲気と、一方で実質的で気高い響きが共に明滅する感性・・・。

ト長調協奏曲の儚さ。第1楽章アレグラメンテ冒頭、静けさに満ちるむちの一撃。その後のピッコロの旋律から思わず惹き込まれるという、デュトワ指揮モントリオール響の魔法。また、第2楽章アダージョ・アッサイの天国的美しさはロジェの真骨頂。音楽は徐々に音量を上げ、同時に輪郭をはっきりさせていくが、その明確さにどういうわけか哀しみを感じるのである。

月 悲しめり。涙に暮るる、熾天使は
夢見つつ、指には弓を、静まり返る 花々の
靄と沈む そのなかに、息絶えんとする ヴィオルから
引き出す 白き忍び音を、花冠峙つ 蒼穹へと散らし
―あれは 初めての君の 接吻の 祝福された日。
「あらわれ」
渡辺守章訳「マラルメ詩集」(岩波文庫)P28

ラヴェル:
・ピアノ協奏曲ト長調
・古風なメヌエット(管弦楽版)
・左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
・海原の小舟(管弦楽版)
・バレエ「ジャンヌの扇」のファンファーレ
パスカル・ロジェ(ピアノ)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1982.6.17-25録音)

「古風なメヌエット」の柔らかで透明な歌はデュトワならでは。
何より左手の協奏曲の超絶名演奏。この単一楽章の作品は、非の打ちどころのない完璧さだが、ロジェとデュトワのそれこそ丁々発止の協奏に舌を巻く。導入部の無限の響きから素敵だが、何より中間部アレグロの激性と、終結部の長いカデンツァを経ての爆発にため息が出るほど。

ぼくの魂は 君の額のほうへと、おお 穏やかな妹よ、
そこに夢見るのは、紅の 落ち葉散り敷く 秋、
それから 君の瞳の 天使のような 揺らめく空へと
昇ってゆく、憂愁に閉ざされた 庭園にあって
いつも変わらぬ一筋の 噴水が白く、憧れてゆく、蒼穹へと!
「ためいき」
~同上書P58

名演だ。
さらに、「海原の小舟」の幽玄さ。この音楽の内側にある温かさはラヴェルの心の表象だが、それはデュトワの内面の顕現でもあろう。

太陽は 砂の上の、おお 眠りこめた闘う女よ、
君の髪の毛の黄金に、沸かしている、物憂げな 湯浴みの水を、
そして、君の敵意ある 頬の上に、香を 焚き尽くしては
涙とともに 混ぜ合わす、恋の飲み物を。
「夏の悲しみ」
~同上書P50

(翻訳の難しいといわれる)ステファヌ・マラルメの詩の見事な和訳を片手に聴く夜更けのモーリス・ラヴェル・・・。

 

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