ヴィシネフスカヤのショスタコーヴィチ「ブロークによる7つの歌」(1968.6Live)を聴いて思ふ

チェロがうなる。
ピアノは沈む。そこに浮き上がるガリーナ・ヴィシネフスカヤの歌が、とても悲しい。
第4曲「街は眠る」に谺する英国国歌の涙。
そして、ピアノが跳ね、ヴァイオリンは哭く。
激情含む第5曲「嵐」を経て、安寧のうちに歌われる第6曲「秘密のしるし」でのチェロとヴァイオリンの深遠さ。さらには、ピアノ三重奏を伴奏とする第7曲「音楽」の神聖かつ透明な音色。
ソプラノは終始人間の声とは思えず、伴奏のチェロも、ヴァイオリンも、またピアノの音も実に深刻で、この世のものとは思えぬ色合いを醸す。
前年の心臓発作の影響で、精神は乱れ、創造行為への自己不信すら滲ませたショスタコーヴィチの魂の声。アレクサンドル・ブロークの詩と融け合う様が真に美しい。

自分自身に幻滅しています。というより、自分はひじょうに感覚が鈍く凡庸な作曲家であると悟るようになったのです。六十歳になった今「妨害された人生行路」を振り返ってみると、生まれてから二度、ぼくのまわりで大騒動が起こりました。(「ムツェンスク郡のマクベス夫人」のときと、交響曲第十三番のときです)。それは莫大な影響をぼくに与えました。でも、すべてが収まり、平常に戻ってみると、「マクベス夫人」も交響曲第十三番も、「鼻」で登場人物が言うような「くだらないもの」であることが分かりました・・・それでも作曲は、病気の性質上苦痛を伴うのですが、いつもぼくに付きまといます。今日、A・ブロークのテキストによる七つのロマンスを完成させました。
(1967年2月3日付日記)
ローレル・E・ファーイ著 藤岡啓介/佐々木千恵訳「ショスタコーヴィチある生涯」(アルファベータ)P324-325

これほどまでに落胆を明記しながら、徹底推敲の上生み出された作品は見事としか言いようがない。「くだらないもの」も超える傑作。

ショスタコーヴィチ:
・チェロ・ソナタニ短調作品40(1964.6.14Live)
・ブロークの詩による7つのロマンス作品127(1968.6.24Live)
ガリーナ・ヴィシネフスカヤ(ソプラノ)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
エマニュエル・ハーヴィッツ(ヴァイオリン)
ベンジャミン・ブリテン(ピアノ)
・ヤナーチェク:おとぎ話(1967.6.27Live)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
ベンジャミン・ブリテン(ピアノ)

ロストロポーヴィチとブリテンによるヤナーチェクの「おとぎ話」がまた美しい。
ブリテン奏する抑圧されたピアノに、ピツィカートで絡むロストロポーヴィチのチェロはとてもジャジーで、解放的。2つの楽器が渾然一体となるメルヘンに釘付け。
いずれも、オールドバラ音楽祭でのまさに一期一会の記録。

 

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