朝比奈隆指揮都響のブルックナー交響曲第2番(1986.9.11Live)を聴いて思ふ

そこかしこに後年の作品の旋律が木霊する。
アントン・ブルックナーはまさしくこの作品において一気に個性を開花させ、自らの方法を獲得、飛翔したのだと思われる。それは、交響曲第1番ハ短調作曲後の、今では「第0番」と称される(作曲者が「単なる試作」とする)ニ短調交響曲での果敢な挑戦、実験があったからこそ。人生に無駄はないのである。

随分時間がかかったのだけれど、ようやくその真髄がわかったように思った。
もはや晩年の朝比奈御大はこの交響曲を舞台にかけることがなかったことが何より残念。
その気になっていれば耳にすることができた1986年9月11日の、東京文化会館での都響第239回定期演奏会の実況録音を聴くにつけ、その実演に触れることができなかったことが心底悔やまれる。

相変わらず御大のブルックナーは無骨ながら雄渾だ。それでいて、どの楽章にも垣間見られる詩情は、ブルックナーの可憐な心と信仰心篤い魂の見事な証。
ちなみに、1993年の宇野功芳さんとの対談の中で朝比奈御大はかく語る。

朝比奈 練習では遅いとか速いとか、音が汚いとか厳しく言いますが、舞台はまかしてくれ、という気持ちです。
宇野 舞台に秘密あり、ですか。
朝比奈 舞台は自分が感じたようになる。練習は間違い探し、本番は指揮者が全責任を負って討ち死にするかどうか。感動はそうして得られるものです。
「朝比奈隆のすべて―指揮者生活60年の軌跡」(芸術現代社)P189

舞台のひとつひとつに命を賭けた至芸。
だからこそやっぱり実演を聴かなければならなかったのだ。

・ブルックナー:交響曲第2番ハ短調(ハース版)
朝比奈隆指揮東京都交響楽団(1986.9.11Live)

第7交響曲の旋律、そして第8交響曲の音調などなど・・・、どの瞬間も懐かしさの極み。
第1楽章も第2楽章アダージョも実に意味深い音楽でまた美しい。とはいえ、一層すごいのは終楽章!!柔かな序奏に続く、劇的な第1主題の喜びは朝比奈御大の本懐。また滑らかに歌われる弦楽器を主体にした第2主題の優しさ。楽想のスムーズな運びは、ブルックナーをこよなく愛する指揮者のなせる技だろう。
なるほど、ここには交響曲第4番「ロマンティック」の断片も聞こえる。

珍しく連日のようにアントン・ブルックナーを聴いて思う。
ロベルト・ハースは彼の作品に「神秘性」を見出すようだが、そんなに手に入れ難い高尚なものでなく、むしろもっと自然の、また人間らしい俗っぽさが聴き取れるところが、(特に朝比奈のブルックナーの)懐かしさを喚起し、また幾度聴いても飽きさせない所以なのだと僕は思う。

 

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2 COMMENTS

雅之

当時と今とでは、世間の考え方も社会情勢もすべてが変わってしまいました。スマホも携帯もなかった時代ですからね。恋人と上野で待ち合せの約束をしても、相手が来なくて何をしているのかわからず待ちぼうけ・・・、なんていうドラマの展開も作りにくい現在が、果たしていいのか悪いのか(笑)。

だから、実演に居合わせた人が当時の録音を今再生して聴いたとしても、聴く側の思考回路が変われば、芸術鑑賞とは相対的なものですから、「あの時と同じ音楽体験」には絶対になり得ませんよね。

改めて、自分が多感だった「男女7人夏物語」(1986年7月25日~9月26日)の時代が懐かしいです。

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実演とは、旬なものです。

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岡本 浩和

>雅之様

>実演とは、旬なものです。

おっしゃるとおりです。
確かにこのコンサートも、仮に当時行けていたとしても今音盤で聴いて得られるような感銘はなかったかもしれません。

>「男女7人夏物語」(1986年7月25日~9月26日)の時代が懐かしいです。

80年代って良かったですよね。僕も懐かしいです。

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