デュトワ指揮モントリオール響のリムスキー＝コルサコフ「シェエラザード」（1983録音）を聴いて思ふ

久しぶりにシャルル・デュトワの指揮する「シェエラザード」を聴いた。
この、エキゾチックで美しい旋律を持つ音楽がいかにも心に響いた。
そういえば、この作品は1910年にディアギレフ率いるバレエ・リュスによってバレエ化されていたんだった。

「シェエラザード」でディアギレフは、かつてノヴェールが夢見た説を実践した。ノヴェールの書には「美術家、作曲家、振付家が一体となれば、どんな奇跡が生まれるだろうか！」とあるのだ。ディアギレフが「シェエラザード」で見せたのは、このノヴェールの言う協調なのだ。この作品を観客がどう思ったかを伝えるのは難しい。幕が下りても、客席の興奮はいっこうに静まらなかった。
～セルゲイ・グリゴリエフ著／薄井憲二監訳／森瑠依子ほか訳「ディアギレフ・バレエ年代記1909-1929」（平凡社）P41-42

リムスキー=コルサコフの音楽は、物語を見事に描写する。
第1曲「海とシンドバッドの船」冒頭の独奏ヴァイオリンによるシェエラザードの主題の色香に痺れる。

サルタン・シャーリアールは、女性たちが不信で不貞であると考えて、いかなる女性たちも初夜を過ごした後に殺してしまおうと誓った。しかし王妃シェエラザードは、王に興味ある物語を話し、千一夜の間生命をながらえた。その話のおもしろさにひきずられて、彼女を殺すのを一日々々と延ばし、ついにサルタンは、残酷な誓いを完全に捨ててしまった。
～作曲家別名曲解説ライブラリー22「ロシア国民楽派」（音楽之友社）P59

やはり女性の純愛（？）が男を救うということなのか・・・。
ならば、不倶戴天の憎悪満ちる現代において、誰しもが内なる女性性を喚起し、揺れ動かく感情を抑止し、静かになれぬものなのか。

両性具有、あるいは男女両性に関しては―それこそ完全な夢である。これは、ホルモン注射で胸をふくらます男の変装より、遥かに精神的なものであり、内向的な志向である。ソベシャンスカヤにも玉三郎にも、勿論、乳房はないのだ！彼らは意志、規律、メソードによって変装するのである。両性具有は、ほとんど心の状態である。一人の女性ダンサーのためにヴァリエーションを振付ける時、私は彼女と共に女性ダンサーになるのである。仕事におけるこのカップル―振付者とダンサーは、もはや一心同体なのだ。しかし恋愛による一体化とは何の関係もない。私は、彼女にふさわしい振りを考え出すために彼女になるのであり、最初は私のものであったその振りを彼女が踊る時、彼女は私になるのだ。つまり、振付をする時、私は男女両性になるのである。
～前田允訳「モーリス・ベジャール自伝―他者の人生の中での一瞬・・・」（劇書房）P248

音楽にせよ踊りにせよ、芸術とは何て動的であり、意志であり、主体なんだろう。
音楽には女性性を呼び覚ます力があるようにあらためて僕は思う。

リムスキー＝コルサコフ：
・交響組曲「シェエラザード」作品35（1983.5.5&6録音）
・スペイン奇想曲作品34（1983.9.22&23録音）
リチャード・ロバーツ（ヴァイオリン独奏）
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

どの瞬間も甘美で濃密でありながら透明感を失わない美しさ。
第2曲「カランダール王子の物語」での、シェエラザードの主題を奏するロバーツのヴァイオリンからして繊細で、また主部に入ってからのファゴットによる王子の主題も何だか哀しげで堪らない。
そして、第3曲「若い王子と王女」では、冒頭、デュトワの棒によって弦楽器による愛の交歓が優しく描かれ、終曲「バグダッドの祭り―海―青銅の騎士の立つ岩での難破―終曲」で、音の一粒一粒が活き活きと立ち、音そのものが自発的に踊り跳ねるように奏されているところが本当にすごい。当時のモントリオール響の技量の優秀さを目の当たりにする瞬間多々。

ちなみに、「スペイン奇想曲」は、第1楽章アルボラーダからとても粘り、明朗で温かい音調が醸される。音楽は終始前向きかつ情熱的で、デュトワの魔法の棒によって繰り出されるスペイン情緒に思わず感応。最高だ。

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