マリア・カラスのロッシーニ歌劇「イタリアのトルコ人」(1954.8-9録音)を聴いて思ふ

1955年4月、マリア・カラスは、ルキノ・ヴィスコンティのアシスタントだったフランコ・ゼッフィレッリのプロダクションによるロッシーニの「イタリアのトルコ人」でスカラ座に復帰し、大きな喝采を浴びたという。
前年の録音を聴いた。
ロッシーニのオペラは正直あまり得意ではない。
そんな僕でも古い録音から感じとれる大いなる実存感。
図太い伸びのある声に、それが一聴マリア・カラスであることがわかる。
特に、メジャーにデビューして以降の、破竹の勢いの若きカラスの歌唱はいずれもが絶品。

カラスはイタリアで最も卓越したドラマティコ・リリコ・ソプラノであるだけでなく、たぐいまれな才能をもつ俳優でもある。彼女は、ひと声も歌わないうちから、その存在感だけで聴衆を魅了した。歌いはじめてみると、どのフレーズも天衣無縫であり、聴衆は、フレーズの最初の音を聴いただけで、彼女が、それがどこでどう終わるのかを意識の上ではもちろん本能でも正確に感じとっていることがわかった。・・・彼女の敏捷性には非凡なものがある。軽やかな声ではないのだが、彼女は最もむずかしいコロラトゥーラをやすやすと歌いこなし、下降するグリッサンドで聴く者の心を震わせた。
ステリオス・ガラトプーロス著/高橋早苗訳「マリア・カラス―聖なる怪物」(白水社)P141

俳優としての演技力も素晴らしかったというところが彼女の他を冠絶する凄さ。
ここでドンナ・フィオリッラに扮するカラスの歌は、とても柔らかく、人間味溢れていてとても素敵。例えば、第2幕第1場第9番の合唱「完璧な喜びなどない」とフィオリッラのカヴァティーナ「もしもそよ風が止まるなら」での男声合唱の狭間から湧き立つようなカラスの素朴で愛らしいソプラノに僕は心動かされる。

・ロッシーニ:歌劇「イタリアのトルコ人」
マリア・カラス(フィオリッラ、ソプラノ)
ニコラ=ロッシ・レメーニ(セリム、バス)
ニコライ・ゲッダ(ドン・ナルチーゾ、テノール)
フランコ・カラブレーゼ(ドン・ジェローニオ、バス)
ヨランダ・ガルディーノ(ザイーダ、メゾソプラノ)
ピエロ・デ・パルマ(アルバザール、テノール)
マリアーノ・スタービレ(プロズドチモ、バリトン)
ジャナンドレア・ガヴァッツェーニ指揮ミラノ・スカラ座合唱団&管弦楽団(1954.8.31-9.8録音)

いかにも(白々しい?)ロッシーニ的ハッピー・エンドだけれど・・・。
しかし、こういう(見え見えの)どたばたの喜劇においてもマリア・カラスの果たす役割は大きかったよう。もちろんその堂々たる歌唱によって観衆の心を鷲づかみにしただろうことは間違いないだろう。

彼女が今日のオペラ界で最も興奮を呼ぶ歌手であることはまちがいない。彼女の長所は何か?何よりも必要とされる広い声域と力強さ。色彩に富む歌声と、ドラマへのたぐいまれな理解力がそろっていること。感動的で刺激的な声の響き。堂々たる風采、豊かな肉体表現、いまの女優にはめずらしい舞台への支配力。・・・たしかに、一度か二度、声が美しさを失って少し鼻にかかることもあった。しかし、だからといって、聴衆のすばらしい反応が鈍ったわけではけっしてない。
~同上書P149-150

上記は、当時のカラスのノルマ評である。オペラの素材は違えど、いかに彼女が多くの人々を魅了する才能をもっていたかがわかる。ただし、人間であるゆえ、ミスなく完全であったということではない。しかし、そのカリスマ性は想像を絶するものだった。
やっぱり僕はロッシーニは得意でない。

 

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2 COMMENTS

雅之

ご紹介の音盤が録音された1954年という年は、フェデリコ・フェリーニ監督の名作映画「道」が公開された年であると同時に(イタリア公開1954年9月22日)、

邦画では、「君の名は」(1954年4月27日公開)や、

https://www.amazon.co.jp/%E3%81%82%E3%81%AE%E9%A0%83%E6%98%A0%E7%94%BB-%E5%90%9B%E3%81%AE%E5%90%8D%E3%81%AF-%E7%AC%AC3%E9%83%A8-DVD-%E4%BD%90%E7%94%B0%E5%95%93%E4%BA%8C/dp/B009IX4JTI/ref=sr_1_3?s=dvd&ie=UTF8&qid=1495286607&sr=1-3&keywords=%E5%90%9B%E3%81%AE%E5%90%8D%E3%81%AF+%E4%BD%90%E7%94%B0

一作目の「ゴジラ」(1954年11月3日公開)が、大ヒットした年でもありました。

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B4%E3%82%B8%E3%83%A9-1954%E5%B9%B4-GOZILLA-Blu-ray-PS3%E5%86%8D%E7%94%9F-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E9%9F%B3%E5%A3%B0%E5%8F%AF/dp/B005VU9LKE/ref=sr_1_12?s=dvd&ie=UTF8&qid=1495287002&sr=1-12&keywords=%E3%82%B4%E3%82%B8%E3%83%A9

>いかにも白々しい(ロッシーニ的)ハッピー・エンドだけれど・・・。

>やっぱり僕はロッシーニは得意でない。

昨年公開され大ヒットした、喜劇「逃げるは恥だが役に立つ」から・・・。

・・・・・・君はさ、無くても困らない物(CD・・・笑)をわざわざ買う? ・・・・・・風見涼太の台詞より

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岡本 浩和

>雅之様

>君はさ、無くても困らない物(CD・・・笑)をわざわざ買う?

言い訳はしたくないのですが・・・、
カラスのcomplete boxを買ったら必然的についてきまして、ならば聴いてみようかとなり、とはいえやっぱりロッシーニは・・・、ということですのでお許しを・・・(笑)

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