クレーメル&アルゲリッチのシューマン ヴァイオリン・ソナタ集(1985.11録音)を聴いて思ふ

たぶん、僕は夕べの岡本誠司に知らぬ間に相当触発されたのだと思う。
精神を病んで以降の、ロベルト・シューマンの何とも躁的な、それでいて暗澹たる内側を醸す晩年の旋律が頭から離れないのだ。
特に優れていた、1851年9月に5日間で作曲された、ヴァイオリン・ソナタイ短調の歌。
第1楽章アレグロ・アパッショナートにある、一向に冷めることのない暗い熱。沈んでは浮き、浮いては沈む、不安定な感情の揺れに、音楽が巻き込まれ、見事に聴く者に影響を与える。
人々は、なぜロベルト・シューマンの音楽を愛するのか?
―その精神的不安定を喚起する音調に病みつきになるのだ。
人々は、なぜロベルト・シューマンの音楽を嫌がるのか?
―その精神的不安定を喚起する音調に居ても立ってもいられなくなるのだ。

第2楽章アレグレットの、愛らしさ、詩情。ここにあるのは、クララへの紛うことなき愛の反映。ギドン・クレーメルのヴァイオリンとマルタ・アルゲリッチのピアノの対話が繊細で美しい。また、終楽章アレグロ・コン・ブリオでは、(昨日の岡本の演奏も実に生き生きと素晴らしいものだったが)いよいよ喜び弾け、僕たちの心を芯から癒す。

マルタとの演奏で最もすばらしいことは、お互いに聴きあうということから脱け出した完全な喜びが得られるということです。双方が豊かな天性を具えているということは、ふたりの音楽家が仕事をする上で最も重要なことであると私は信じています。それは、一方が自己を固執するのではなく、今度は相手の方法でもやってみようということができる、いわば黄金律のようなものであるべきなのです。そしてそれは、結果的に妥協のようなものではなく、そのことによって他の経験がわかちあわれ、新たな経験が得られるというようなものであるべきなのです。
~(藤田由之)F35G 20075ライナーノーツ

この、ギドン・クレーメルの言葉がすべてを物語っている。「完全な喜び」という表現が貴い。

シューマン:
・ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調作品105
・ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調作品121
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)(1985.11録音)

同年10月に、同じくわずか8日間で作曲された、4つの楽章をもつヴァイオリン・ソナタニ短調の一層の深み。第1楽章の決然とした序奏に惹かれ、主部のヴァイオリンの柔らかくも深い音色に僕は降参。シューマンの天才、同時にクレーメルの表現の巧みさ。また、ブラームスに影響を与えたであろう第2楽章スケルツォの躍動的なリズムと、水も滴るトリオの対比に感動。しかし、何と言っても第3楽章の静けさと美しさが絶品(ヴァイオリンのピツィカートによる主題提示が堪らない)!続く終楽章は、いかにもシューマン風の粘着質の音楽だが、解放的である分救い。
ギドン・クレーメルの独奏はさすが。
マルタ・アルゲリッチの伴奏についてはいわずもがな。

 

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2 COMMENTS

雅之

そういえば、岡本様は、この編曲、結局お聴きになりましたっけ?

・交響的練習曲~アダージョとアレグロ・ブリランテ(チャイコフスキー編曲)
・『子供の情景』~見知らぬ国と人々から(ラヴェル編曲)
・『謝肉祭』より(ラヴェル編曲)
 前口上
 ドイツ風ワルツ
 間奏曲『パガニーニ』
 フィリスティン(ペリシテ人)と戦うダヴィッド同盟の行進

 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
 リッカルド・シャイー(指揮)

http://www.hmv.co.jp/artist_%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%80%81%E3%83%AD%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%EF%BC%881810-1856%EF%BC%89_000000000034590/item_%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E3%80%81%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC%EF%BC%94%E7%95%AA%E3%80%81%E4%BB%96%E3%80%80%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%81%E3%80%81%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%83%BC%EF%BC%86%E3%82%B2%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%A3_3771325

シューマン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 (オーケストレーション:ショスタコーヴィチ)

 ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
 ボストン交響楽団
 小澤征爾(指揮)

http://www.hmv.co.jp/artist_%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%80%81%E3%83%AD%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%EF%BC%881810-1856%EF%BC%89_000000000034590/item_%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E3%80%81%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF%E7%AC%AC1%E7%95%AA%E3%80%81%E7%AC%AC2%E7%95%AA%E3%80%80%E3%82%AE%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%80%81%E5%B0%8F%E6%BE%A4%E5%BE%81%E7%88%BE-%E3%83%9C%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%A5%BD%E5%9B%A3%E3%80%81%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%81_7424635

もよいですよね。

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岡本 浩和

>雅之様

いつだったか教えていただいたままで聴けておりません。
すいません・・・。
クレーメルによるショスタコ編曲の協奏曲も未聴なので、この際、あわせて手に入れて聴いてみます。
それにしても、これだけ多くの大作曲家の編曲魂を揺さぶるシューマンの作品の魅力というのはどれほどなんでしょう?!

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