“Peel Slowly & See” – “The Velvet Underground” (1969)を聴いて思ふ

現代にも通用する音楽と詩と。
ほとんど時代の空気感までもがテープに収録されているという奇蹟。
1960年代の世界の熱気と狂気。ロック音楽の、まるで権力に抗う狂暴性と音そのもののメッセージ性。
僕は彼らのライヴ(あるいはデモテープ)の「儚い美しさ」に脳みそをかき乱されるほどに圧倒される。
直接に魂に響く音は、実に永遠普遍。
冒頭に収録された、1968年10月2日、クリーヴランドでのライヴ音源から採られた”What Goes On”。荒々しいモーリーン・タッカーのドラムとタグ・ユールのベースに導かれ、ルー・リードが絶唱する。

What goes on here in your mind
I think that I am falling down
What goes on here in your mind
I think that I am upside down

そういえば、僕が保育園児の頃、ひとりの友だちが、砂場でドラマーの前をしていきなり歌い出したことを思い出した。たぶんあれは、ヴェルヴェッツのこの曲だったのではないか。それにしても、ここでのスターリング・モリスンのギター・プレイの壮絶さはいかばかりか。

スタジオ正規録音である3枚目のアルバムが続く。
“Candy Says”の、狙ったかのような静けさ、ダグ・ユールの愛の囁きのようなヴォーカルと、コーラスのハミングの交錯が絶品。身体のある不自由さが芸術を生む。もし人が魂だけの存在になり得たら、音楽など必要ないのだ。

Candy says I’ve come to hate my body
And all that it requires in this world
Candy says I’d like to know completely
What others so discretely talk about

早くも分断の不都合を知り、一体の重要性を暗に説くルー・リードの天才。
そして、”Pale Blue Eyes”は実に哀しい(1990年のNHKホールでの、ルーとジョン・ケイルの来日ライヴのアンコールで、ジョンがピアノの弾き語りでこの曲を歌い出した時の感動はいまだに僕の内側に残り、決して色褪せない)。名作だ。

Thought of you us my mountain top
Thought of you as everything
I’ve had but couldn’t keep
Linger on your pale blue eyes

その後の”Jesus”の言葉にならぬ美しさ。

Help me in my weakness
‘Cause I’m falling out of grace
Jesus, Jesus

人は独りで生まれ、独りで死んで往くのである。
孤独と闘うためにおそらく信仰というものがあるのだろう。

・The Velvet Underground (1969)

Personnel
Lou Reed (lead and rhythm guitar, piano, lead vocals, verse co-vocals)
Doug Yule (bass guitar, organ, lead vocals, chorus co-vocals, backing vocals)
Sterling Morrison (rhythm and lead guitar, verse co-vocals, backing vocals)
Maureen Tucker (percussion, lead vocals, chorus co-vocals, backing vocals)

1995年にリリースされたボックス・セット” Peel Slowly & See”には、未発表のライヴ音源やデモ・テープが収録されているが、4枚目はサード・アルバム(1968年11月&12月録音)を中心に構成されたもの。特に、メンバー全員がヴォーカルをとる、ヴェルヴェッツらしい驚異の前衛的作品である”The Murder Mystery”が素晴らしい。音楽は延々といつ果てるとも知らず9分近くに及ぶ。そして、モーリーン・タッカーによる”After Hours”の可憐さ。
ちなみに、ボーナス・トラックの”I’m Sticking With You”でもモーリーンがリード・ヴォーカルをとるが、曲の後半はルーがメインを歌い、モーリーンはコーラスに回る。何とも絶妙な効果(なぜこの録音がお蔵入りになったのか)!
そして、ルー・リードによる”Lisa Says”も彼ならではの作品で、本当に素敵。
なお、1969年10月28日の、ダラスでのライヴ収録である”It’s Just Too Much”は、彼らのライヴ・パフォーマンスの激性が示され、同時に音楽性の高さまでもが垣間見られ、見事としか言いようがない。

 

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4 COMMENTS

雅之

ルー・リードのインタビュー記事を読んでみましたが、反骨精神がじつにいいですね。

「昔はね、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの頃とか、エンジニアとかに仕事を放棄されたりしたからね。『うるさすぎる』とか言ってね。『これはひどい代物だ、いいか、テープ回しておくから、終わったら呼んでくれ』って言われるんだよ。以来、長い間、俺はずっと当時やってたことを耳が聞こえなくならないようにしてやるにはどうすればいいのか、試行錯誤を続けてきてるんだよね。実際、聴覚の検査だって受けたんだよね。嬉しいことに、たまたま検査士が俺のファンだったから、もうちょっと踏み込んだ検査までやって、ちょっとでも心配なところを全部診てもらったんだけどね。そいつの言うことじゃ、『高音が難聴になってきてるけど、ニューヨーカーにしては平均に近い方ですよ』っていうことだったんだ。この『ニューヨーカーにしては』っていう言い方がなんか俺にはちょっとおもしろかったんだよね」

https://rockinon.com/news/detail/118982

音楽をよくわかっていると言い張る連中ほど耳が悪いという確信が、私にはあります。

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岡本 浩和

>雅之様

ルー・リードって本当に素晴らしいと僕は思います。
ところで、”Metal Machine Music”って聴かれたことありますか?
ギター・ノイズだけでアルバムを制作した問題作なのですが、これこそまさに反骨精神の最たるものだと思います。
未聴でしたらぜひ!ぶっ飛びます。(笑)

https://www.youtube.com/watch?v=XIMSbKU2oZM

>音楽をよくわかっていると言い張る連中ほど耳が悪いという確信が、私にはあります。

何でも「わかった」という人は信用してはいけません。(笑)

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