“Genesis” (1983) & The Police “Synchronicity” (1983)ほかを聴いて思ふ

太宰治は文学の主題に恋愛を据え、恋愛小説を書いています。「ヴィヨンの妻」などがそれにあたります。夏目漱石の文学も基本的に恋愛小説です。みんなどこか寂しげな―。
「行人」などはその典型です。そこには、妻と夫の関係が描かれています。自分の弟に妻とふたりきりで旅に出掛けさせ、いじましくも自分はひとり残って長文の手紙を書きます。彼はつまり、自分の妻を試しているわけです。
それはほとんど自分の母親を試しているのに等しいのです。
子供というものは、母親を試すでしょう。いろいろと悪いことをやって、どこまで母親が許すのか、ということをしばしばやります。逆に、母親のほうだって子供を試すことがあります。おたがい、愛する相手がどこまで許すのか、試しているのです。
岸田秀著「母親幻想」(新書館)P67-68

母子関係に限らず、人間関係は「許し」をテーマにした試し合いである。
そういうゲーム的交流を止めるには、絆を固くするしかない。絆を固くするには赤裸々な自己開示だ。また、素直な傾聴だ。

芸術の主題は生活における葛藤や試しが主である。
まさに負の美学。例えば、ロック音楽におけるプロテストも、体制に対する反抗の態をとった母親に対する試しなのではなかろうか。

I can’t see you mama
But I know you’re always there
Ooh to touch and to feel you mama
Oh I just can’t keep away
It’s the heat and the stream of the city
Oh its got me running and I just can’t brake
So say you’ll help me mama
Cos its getting so hard
Genesis “Mama”

「お母さん、助けて」という切実な叫びが胸に迫る。フィル・コリンズの張り裂けるヴォーカルが深刻な悲しみを助長する。

・genesis (1983)

Personnel
Tony Banks (keyboards, backing vocals)
Mike Rutherford (guitars, bass, backing vocals)
Phil Collins (drums, percussion, lead vocals)

かつてのプログレ時代の「意味」を取り戻した名盤。

あるいは、同じ年のザ・ポリス。

Oh mother dear please listen
And don’t devour me
Oh mother dear please listen
Don’t devour me
Oh women please have mercy
Let this poor boy be
Oh mother dear please listen
And don’t devour me
The Police “Mother”

アンディ・サマーズの慟哭。母という幻想を求める男たち。

・The Police:Synchronicity (1983)~Message In A Box – The Complete Recordings

Personnel
Sting (bass guitar, keyboards, lead and backing vocals, oboe, drum machine, saxophone)
Andy Summers (electric guitar, backing vocals, keyboards, lead vocals)
Stewart Copeland (drums, xylophone, miscellaneous percussion)

「共時性」という名のアルバムは、人間の根底の不安を抉った名作だ。それゆえ、35年近くを経た今も色褪せない。

Every breath you take
Every move you make
Every bond you break
Every step you take
I’ll be watching you
The Police “Every Breath You Take”

おそらく、ここでの”you”とは、恋人であり、また母であるのだと思う。
男はまったく弱い生き物だ。

そして、その十数年前には、ジョン・レノンが母を題材にした歌を作っていた。

Mother, you had me but I never had you
I wanted you, you didn’t want me
So I, I just gotta tell you
Goodbye, goodbye
Mamma, don’t go
Daddy, come home

John Lennon “Mother”

・John Lennon / Plastic Ono Band (1970) (Millennium Edition)

Personnel
John Lennon (vocals, acoustic and electric guitars, piano, keyboards)
Ringo Starr (drums)
Klaus Voormann (bass)
Phil Spector (piano)
Billy Preston (piano)
Yoko Ono (wind)
Mal Evans (tea and sympathy)

壮絶な叫びが涙を誘う。
レノンは、抑圧された母への思いを吐き出すことで母という幻想を卒業しようとしたのだろうが、実際にはそれは叶わなかった。根深いものだ。
切っても切れない「母という絆」。何にせよ感謝しかない。

Love is real, real is love
Love is feeling, feeling love
Love is wanting to be loved

Love is touch, touch is love
Love is reaching, reaching love
Love is asking to be loved

Love is you
You and me
Love is knowing
we can be

Love is free, free is love
Love is living, living love
Love is needing to be loved
John Lennon “Love”

フィル・スペクターのピアノがやけに悲しく響く(そして透明だ)。

 

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2 COMMENTS

雅之

何も書くことが浮かびませんが、とりあえず・・・。

・・・・・・母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。・・・・・・西条八十 「ぼくの帽子」

https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E8%A3%85%E7%89%88-%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AE%E8%A8%BC%E6%98%8E-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%A3%AE%E6%9D%91-%E8%AA%A0%E4%B8%80/dp/4041753600/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1498312947&sr=1-2&keywords=%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AE%E8%A8%BC%E6%98%8E

https://www.youtube.com/watch?v=lA63k0qefno

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