暗闇の中の対話

szymanowski_stabat_mater_rattle.jpg感じる、聴こえる、みえてくる。いつだったか日本に初めて紹介された時にお誘いを受けたものの、仕事の忙しさに感けて結局体験せず仕舞いだった「Dialog in the Dark」に行った。知己の友人、そして初対面の方々、男女8名がグループを組んで、視覚障害者であるというインストラクターのもと1時間の真っ暗闇での「小さな旅」を楽しんだ。
それにしても純度100%の漆黒の世界は、まったく眼が慣れない。「視覚を失う」ことがどんなことなのかほんの少しだが体感させてもらった。頼りになるのは一本の白杖と、お互い掛け合う声、そして時にぶつかる身体と身体の触れ合いのみ。一瞬で匂いや音に極めて敏感になり、物を触るとそれが何なのか、今どういう所にいるのかただ想像するだけ。視覚以外の感覚が研ぎ澄まされることで、普段見ていなかったもの、感じていなかったものが一層明瞭になる。

他にもいろいろと見たもの、感じたことを書きたいが、細かい内容については体験を奪うといけないのであえて伏せる。未体験の方はぜひ一度この「暗闇の中の対話」に参加してみるといいだろう。

帰途、東京メトロ「東新宿駅」で下車し、夕食用のパンを買おうといつもとは逆の出口に向かい、エレベーターに乗ろうとした。後からついていらっしゃるご婦人がいたので、ドアが閉まってはいけないと思い、僕は「開」ボタンを押した。ところが、コンマ何秒かの差で、僕の動作と同時にドアが閉まりかけ、そのご婦人が一瞬挟まれてしまった。「痛いっ!」と大きな声。それから、小声でいかにも僕に聴こえるように「あら、何も言わないのね(謝りもしないのね)」という一言。その時は特に気にしなかったのだが、よくよく考えてみると、どうやら僕が「閉」ボタンを押したからドアが閉まったのだとそのご婦人は勘違いしたらしい。そういう時ってどうすればいいのだろう?「すいません」と謝るのか?それとも「いや、僕は閉ボタンを押したので、僕のせいじゃないですよ」と弁解するのか?どちらも間抜けだと思うが・・・。

いわゆる健常者は「見えていても観ていない」ことが多い。「聞こえていても聴いていない」ことも多い。それが誤解を生む。挙句人間関係に亀裂が生じることにもなりうる。五感を研ぎ澄まし、よく見て、よく聴いて、人の優しさに触れ、「感じる」ことが大切だ。そんなことをあらためて教えられた一日である。

ということで、「暗闇の美しき世界」に誘ってくれる音楽でもと思い、音盤を取り出す。

シマノフスキ:
・スターバト・マーテル作品53
・聖母マリアの典礼作品59
・交響曲第3番作品27「夜の歌」
エリーザベタ・シミトカ(ソプラノ)
フォローレンス・クィヴァー(メゾソプラノ)
ジョン・ギャリソン(テノール)
ジョン・コネル(バス)
サー・サイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団&合唱団

いずれも歌詞はポーランド語。ブックレットには英訳が付いているので辛うじて意味はわかるが、例によって音楽を聴いたままに内容までを把握できないというもどかしさはある。しかしながら、シマノフスキの作品の録音を多く残しているラトルだけあり、暗澹たる面持ちの音楽の根底には確かな「愛」が感じられる。それは「悲しみの聖母」に歌われる内容に見事にリンクしているよう。ちなみに、第3交響曲は第一次大戦の頃に生み出されたものらしい。同時期のロシアのスクリャービンの音楽に近い「何か」が感じとれる。暗黒・・・、神秘・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
過去にコメントしたかもしれませんが、シマノフスキについてはヴァイオリン協奏曲第2番と交響曲第4番(サンフォニー・コンセルタント)だけはよく聴きこんでおり、素晴らしくよく出来の近代の名曲だと感じているのですが、それ以外の曲については聴き込みが足りません。ご紹介の曲も同じです。
私が大昔のLP時代、チョン・キョンファダン(Vn)、ラドゥ・ルプー(P) と並んで愛聴していたフランクのヴァイオリン・ソナタの音盤に、ダンチョフスカ(Vn)、ツィマーマン(P)があり、
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1417384
二人の演奏家にとってこれは青春の記念碑的な録音だと信じているのですが、最近のCD再発盤で先日何十年かぶりに聴き直してみたら、「神話 op.30」などシマノフスキの演奏が、フランクにも増して瑞々しい名演だと感じました(昔はフランクだけを聴いていたと思う)。
岡本さんも、ツィマーマンの今年の来日公演でのシマノフスキの演奏に魅かれたようですが、彼のシマノフスキの曲に対する共感度は、とても深いのでしょうね。
シマノフスキ・・・、聴き込み勉強する価値のある作曲家です。また今日もクラヲタから足を洗えなくなりました(爆)。
・・・で、コメントを終えるところでしたが、本日の岡本さんの話題に因んで、和波孝禧さんのイザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲」世界初録音を、再びお薦めしておきましょう。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2732851
体を清めて聴きたいほどの、今や歴史的名盤です。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>シマノフスキについてはヴァイオリン協奏曲第2番と交響曲第4番(サンフォニー・コンセルタント)だけはよく聴きこんでおり、素晴らしくよく出来の近代の名曲だと感じているのですが、それ以外の曲については聴き込みが足りません。
シマノフスキについては僕もまだまだ聴き込みは足りないですね。しかし、一層勉強する価値のある大作曲家だと思っています。
ダンチョフスカ&ツィマーマンのフランクは最近CDで再発されましたよね。しかも店頭で¥1,000をきっているのが魅力。
ツィマーマンは同郷のシマノフスキをよく採り上げており、共感度は深いと僕も思います。
>また今日もクラヲタから足を洗えなくなりました(爆)。
足を洗おうと思ってらしたんですか?!それは「無理」というものです(笑)。
>和波孝禧さんのイザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲」世界初録音
以前もおすすめいただいたこの音盤。実はまだ持っておりませんで・・・。ともかく雅之さんにおすすめいただく音盤はどれも気になるのですが、いかんせん追いつきません(苦笑)。
さぞかし素晴らしいんでしょうね。

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