ケンペ指揮フィルハーモニア管のハイドン「ロンドン」交響曲(1956.6録音)ほかを聴いて思ふ

一気呵成に進められる「フィガロの結婚」序曲に対して、一つ一つの音符を丁寧に鳴らし、呼吸を深くため、うねる「コジ・ファン・トゥッテ」序曲。同じ作曲家の音楽でも、楽想に合わせ七変化するルドルフ・ケンペの懐の深さ。
特に、「魔笛」序曲は、緩やかな冒頭の神々しい静謐な祈りに対して、主部アレグロはいかにも人間らしい夢と希望に溢れており、晩年のモーツァルトの苦悩を忘れさせ、音楽だけに没頭させてくれるだけの力が漲る。
あるいは「イドメネオ」序曲の消え入るような最後の、想いの込められた美しさ。

そして、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、柔らかく艶やかな色合いを示す。中でも、終楽章アレグロはケンペのドイツ魂が宿る堂々たる音調。素晴らしい。

―きみが食欲があると聞いてうれしい。
でも、たくさん食べる者は、たくさんウン・・・も、いや、これ以上は言うまい。遠出の散歩は歓迎しないね。―本当にぼくの心からの忠告なんだから。さよなら。―いとしいひと、―かけがえのないひと―きみもつかまえてくれよ空中に―ぼくのキスが2999.5もきみのほうへ飛んで行く。ぱくっと受けとめてもらいたいんだ。―
(1791年6月6日付、モーツァルトからコンスタンツェ宛)
高橋英郎著「モーツァルトの手紙」(小学館)P444

こんなに開けっ広げに、こんなに素直に愛情を表現できるモーツァルトの音楽の赤裸々さ。ケンペの解釈もまさに理知と感情のバランスに富み、聴く者の肺腑を(何気なく)抉る。

モーツァルト:
・歌劇「フィガロの結婚」K.492~序曲(1955.11.23, 24&12.4録音)
・歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588~序曲(1955.11.23, 24&12.4録音)
・歌劇「魔笛」K.620~序曲(1955.11.23, 24&12.4録音)
・歌劇「クレタの王イドメネオ」K.366~序曲(1955.11.23, 24&12.4録音)
・セレナーデ第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(1955.11.23, 24&12.4録音)
ハイドン:
・交響曲第104番ニ長調Hob.I:104「ロンドン」(1956.6録音)
ルドルフ・ケンペ指揮フィルハーモニア管弦楽団

一方、ハイドンの傑作「ロンドン」交響曲の典雅な歌。第1楽章序奏アダージョから主部アレグロにおけるウィーン的情緒の連綿と綴られる様に釘付けになり、ベートーヴェンにつながる終楽章スピリトーソの革新的響きに心動く。
そしてまた、第2楽章アンダンテは何と美しい音楽なのだろう。

「この喜びを告ぐ」
これは何といふ美しさであらう
この美しさは何といふ魔力であらう
この蒼みのある
疲れきつたやうな
ぐつたりした手も足も一つかたまりのやうな
この柔らな世界は何といふ美しさであらう
さし迫つてくる
おとなしい哀憐は涙に充ちてゐるのだ
神のすんでゐるやうな体をして
刻刻に自分に迫つてくるのだ
この人の虐げられた魂は泣く
蒼みのある病人のやうな
この美しさは私を打つ
私に迫る
室生犀星「抒情小曲集・愛の詩集」(講談社文芸文庫)P166-167

その字の通り、胸に迫る歌。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村


2 COMMENTS

雅之

現役フリーメーソン高須克弥氏は、次のように語っているそうです。

・・・・・・仲間内にしかわからないサインや儀式の伝統は、もともとフリーメーソンの前身が中世の石工組合であることに関係している。

たとえばすごい王がいたとしても、本人に城は建てられない。設計して建てるのは石工職人。戦略的な城壁や堀の作り方を熟知し、数学的な能力で計算して築城していく。ある種、すごく科学的な集団なんだよ。そんな専門的な知識の数々を、自分たちにしかわからない符丁をたくさん編みだして、紛れこんでくるスパイから秘密を守ってきたんだよね。その流れが現在も続いているわけだ。

(中略)

フリーメーソンは宗教団体のような見方をされることもあるけど、人間以上の大きな神的な存在を信じていれば基本的にはどんな信仰を持っていても問題はないの。

世界では宗教間の戦争も多いよね。でも、宗教で対立しあってる国のメーソンも、不思議なことにロッジ内では関係なくなる。お前の神と俺の神は違うけれど、ロッジではいっしょだからと、並んで同じ儀式を行うの。

正に友愛結社なんだな。国や宗教や主義主張に関係なく、仲間ならお互いを助けあって大事にする、これがフリーメーソンになった最大のメリットだと思うね。だから僕が命にかかわるくらいの危険に遭遇したとき、メーソンのサインを送ったら、それを察知して助けてくれる仲間がいるだろうという期待は持ってるよ。・・・・・・

http://gakkenmu.jp/column/9327/
より

ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンから、遠くシベリウスまでも、曲に、モールス信号

https://www.youtube.com/watch?v=PYinnL_t8js

のようにフリーメーソンの暗号を忍ばせているとしたら、クラシック音楽は石工職人のDNAを受け継ぐ音楽だと言えるのかも(笑)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

ある種「共同体感覚」の上に成り立っている組織なんでしょうね。
巷で取り沙汰されるほど怪しいものではないと僕は思います。

>フリーメーソンの暗号を忍ばせているとしたら、クラシック音楽は石工職人のDNAを受け継ぐ音楽だと言えるのかも

それは実際あり得るかもしれません。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む