シュムスキー&バルサムのモーツァルトK.301-305 &K.359を聴いて思ふ

人生はある意味一人旅である。
そこに家族があろうと、仲間があろうと、初めて見る風景に心揺れ、特別な何かを感じ想うのはその人だけの特権。

モーツァルトの生涯はほぼ旅であった。それもお金を稼ぐための。
パリからザルツブルクの父に宛てた手紙には次のようにある。

―お父さまもよくご承知のように、もっとも善い、もっとも真実な友人は、貧しい人たちです。金持は友情というものを、まったく知りません!特に生まれた時からの金持は。そして幸運のおかげで金持になる者は、その幸運な環境の中で、己れを失うことが往々あります!
(1778年8月7日付、ヴォルフガングから父レオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(上)」(岩波文庫)P179-180

モーツァルトには金にまつわる話が後を絶たない。
良くも悪くもそれだけ純粋だったのだろうと思う。
その3ヶ月後、今度はマンハイムから父レオポルトに宛てた手紙。

さて別な話ですが、ぼくはここで、ひょっとすると40ルイドール(440フローリーン)もうけるかも知れません!もちろん6週間は、あるいはせいぜい2ヶ月は、滞在しなければなりません。評判を聞いてもうご存知かもしれないザイラーの劇団がここに来ていて、フォン・ダルベルク氏がその支配人です。この人がぼくに二人劇を一つ書いてもらわないうちは、ぼくを離そうとしないのです。
(1778年11月12日付、ヴォルフガングから父レオポルト宛)
~同上書P204

モーツァルトの作品群が、生きるための、どちらかというと俗的動機から生み出されたものであることを考えると、その内から溢れ出る自然さというか純真さは本当に神がかっていると思う。

オスカー・シュムスキーが録音したモーツァルトの、マンハイム=パリ時代に作曲されたソナタを聴いた。
シュムスキーの人間的な節回しに、少年モーツァルトの赤子のような心を思った。

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集第1巻
・ソナタ第25番ト長調K.301(293a)
・ソナタ第26番変ホ長調K.302(293b)
・ソナタ第27番ハ長調K.303(293c)
・ソナタ第28番ホ短調K.304(300c)
・ソナタ第29番イ長調K.305(293d)
・「羊飼いの娘セリメーヌ」による12の変奏曲ト長調K.359(374a)
オスカー・シュムスキー(ヴァイオリン)
アルトゥール・バルサム(ピアノ)

5曲のソナタはいずれも2楽章制で、モーツァルトらしい明るさと軽快さを持つ。
連作の中で唯一の短調作品であるソナタK.304(300c)ですら幾分暗めの音調にいかにも喜びに満ちた旋律が目白押し。シュムスキーのいぶし銀の如くの自然なヴァイオリンもさることながら、バルサムのピアノの巧さが光る。

1781年3月16日、モーツァルトはウィーンに到着する。

ぼくはあのことで大司教に償いを求める気はまったくありません。じじつ大司教は、ぼくがぼく自身のためにそれを求めなければならないような償いの仕方をすることは、できないでしょう。しかし、伯爵には、そのうち書いてやります。ぼくが幸い伯爵に会うことがあったら、さっそく、どんなことをしてやるか、きっと待っているようにと。どこにいたって構いません。ただ、ぼくが遠慮せずにすむところなら。
(1781年6月13日付、ヴォルフガングから父レオポルト宛)
~同上書P282

ト長調変奏曲K.359(374a)は、女弟子のためにウィーン時代の最初の年に作曲された作品だが、ザルツブルクの抑圧から解放されたモーツァルトの実に自由な心の飛翔があり、喜怒哀楽様々な感情が錯綜するところが興味深い。
シュムスキーが歌い、バルサムがそれに対し見事に応える。

 

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