諏訪内のシベリウス

sibelius_suwanai.jpgいよいよ今週末は「愛知とし子×近藤恵三子コラボレートコンサート」である。ピアニストの練習も佳境に入り、本番直前モード。何とも表現しがたい、ほど良い緊張感に包まれる。お蔭様でチケットの売れ行きも好調で、最終日(15日)のチケットはソールドアウト。14日についても残りわずかという状況。さすがに13日だけは金曜日ということもあり、まだ余裕がある(ねらい目は金曜日19:30からの回です)。ぜひ成城まで足をお運びください。

随分寒くなった。とはいえ、昨年の今頃よりはだいぶマシだろうか。朝から例によって学生のエントリーシートの添削をしたり、明日の授業の準備をしたりしながら過ごす。集中する時、無音で過ごすことも多いが、気分転換にCDを漁る。今の時期、晩秋から初冬にかけて相応しいのはやっぱりシベリウスの音楽か。久しぶりに棚から取り出して多少音量を上げ気味で聴いてみる。目の覚めるような、しかも熱を帯びているがあくまで涼しいヴァイオリンの音色・・・。

「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のように」とは、作曲者がスコアの第1楽章冒頭に記した言葉である。その言葉通り、聴こえるか聴こえないかのようなか細いヴァイオリンの音色が少しずつ静寂を突き破る。

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47
ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲ロ短調
諏訪内晶子(ヴァイオリン)
サカリ・オラモ指揮バーミンガム市交響楽団

1903年に作曲されたオリジナル稿は、20年近く前にレオニダス・カヴァコスの独奏、オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団によって初録音されているが、その音盤を初めて聴いた時の衝撃は今でも忘れない。ブルックナーの場合と同様、シベリウスの初稿というのは愛好者にとって堪えられないものがある。ともかく楽想がとめどなく湧き出でて、作曲者の直感がそのまま音化されているという魅力に溢れている。このカヴァコス盤についてはいずれブログにも書くことにして、今日のところは1905年に改訂された決定稿(ブラームスのコンチェルトを初めて聴いたシベリウスがその完成度に衝撃を受けて改訂に踏み切ったのだと)。

昔、高校生の頃、僕が愛聴していたのはオイストラフがオーマンディ&フィラデルフィア管と協演したCBSソニーの廉価盤だった。当時の僕にとってオイストラフの豊穣な美音は他の何ものにも代え難く、昼夜問わず暇さえあれば耳を傾けてひとり夢の世界に遊んでいた。その後、チョン・キョンファ、ムター、クレーメルなどなど、いろんな演奏に触れたが、この諏訪内盤には一聴吃驚した。第1楽章冒頭、オーケストラの提示するピアニッシモの繊細さ、そして音楽が進むにつれますます熱くなってゆく様。第2楽章の静寂と憧れに満ちた情感とフィナーレの勇気ある開放感。どこをどう切り取っても有機的でずっとこの中に身を寄せていたいと思うほど。もちろんこれは諏訪内だけの力ではない。バックを務めるオラモ&バーミンガム市響の音楽性にも依る。

前にも書いたが、カップリングのウォルトンがこれまたいかす。これは真に名盤である。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
私がシベリウスのヴァイオリン協奏曲を生演奏で聴く醍醐味のひとつに、ティンパニ、特に終楽章で他楽器とリズムをずらしたティンパニと独奏ヴァイオリンの掛合いの妙があるのですが(この曲のティンパニ、一度でいいからやってみたい、特に美女ヴァイオリニストとの共演なら最高・・・笑)、諏訪内さんの盤は、おそらく録音の関係なのでしょうが、独奏ヴァイオリンだけが際立ち過ぎ、ティンパニなど、バックのオケの明晰さが不足しているように聞こえるのが、私には少し不満です。
というかこの曲も、どんな名演CDも、たとえ下手な演奏でも実演に接する体験にはかなわない曲の典型だと、個人的には思っています。
なお、オラモ指揮バーミンガム響のシベリウスの交響曲のCDは好きです。
交響曲第6番、第7番、タピオラのCDなど、
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1961745
吉松先生御推薦の曲順で聴け、演奏も好きなタイプなので重宝しています。
>1903年に作曲されたオリジナル稿は、20年近く前にレオニダス・カヴァコスの独奏、オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団によって初録音されている
このオリジナル稿の録音はいいですよね。ヴァンスカのシベリウス録音には交響曲第5番(オリジナル版&現行版)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/440198
というのもあり、こちらも演奏も良いし興味深いですよね。
>カップリングのウォルトンがこれまたいかす。
これには同感です。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>おそらく録音の関係なのでしょうが、独奏ヴァイオリンだけが際立ち過ぎ、ティンパニなど、バックのオケの明晰さが不足しているように聞こえるのが、私には少し不満です。
なるほど。僕もこの曲の実演を何度も聴いていますが、(もちろんホールの音響や座る位置にもよると思うのですが)逆にヴァイオリンの音が埋もれてしまって不満になることが多かったですねぇ。
しかし、第3楽章の「ティンパニと独奏ヴァイオリンの掛合いの妙」という観点で聴いてみるとおっしゃるとおりかもしれません。
>オラモ指揮バーミンガム響のシベリウスの交響曲のCDは好きです。
オラモのシベリウス良いですね。
ヴァンスカの第5のオリジナル版、僕も好きです。

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