大友直人指揮東響 東京オペラシティシリーズ第99回

戦後の、希望に溢れた若手音楽家たちが創造した音楽は、それから数十年を経過しても依然として当時の、否、それ以上のエネルギーを保っていた。芥川也寸志、團伊玖磨、黛敏郎が結成した「3人の會」が目指したものは、古き良き形を踏襲しつつより新しいものを創造することだったのだろうか。いずれもが探求に探求を重ね、それぞれが異なる手法で、違った印象を与える、現代にも通用する音楽を彼らは残した。

生きることの根源の意味を示してくれる音楽たち。
大友直人指揮する東京交響楽団の、芥川の「トリプティーク」における精緻なアンサンブルによる弦楽合奏は、自然を思い巡らす作曲家の四季折々の慈しみの音楽を奏でる(ニキティンのソロが素晴らしい)。何より第2楽章「子守歌」は、ヴィオラの穏やかな、母の歌声のような音色が美しく、ヴァイオリンに引き継がれた旋律は、また一層僕たちの心を癒す。
また、團の「飛天繚乱」の、うねる音に心奪われるも、後半の虚ろなフルート独奏の巧さに感激し、同時にピッコロ独奏の絶叫にも感動した。
さらに、黛の「饗宴」において終始爆発する音塊は、聴く者の魂を抉る。まるで不気味なサスペンスの、静かなドラマの音楽のよう。

日本人作曲家の現代音楽というのも捨てたものではない。
西洋音楽のイディオムを用いながらあくまで日本人の感性を刻み込む、土俗と洗練の混在する傑作たち。こういう作品は、実演に触れてこそ。
抜群の技量を持つ東京交響楽団に、先まで見通す眼力と空間を超えすべてを見渡す全体観の優れた大友の指揮。悪かろうはずがない。僕はとても感動していた。未来は明るい。

東京オペラシティシリーズ第99回(東響コーラス創立30周年記念公演)
2017年8月20日(日)14時開演
東京オペラシティコンサートホール
中嶋彰子(ソプラノ)
鳥木弥生(メゾソプラノ)
高柳圭(テノール)
北原瑠美(ソプラノ)
加藤太朗(テノール)
寺田宗永(テノール)
北嶋信也(テノール)
大川博(バリトン)
小林啓倫(バリトン)
清水那由太(バス)
金子宏(バス)
東響コーラス
グレプ・ニキティン(コンサートマスター)
大友直人指揮東京交響楽団
・芥川也寸志:弦楽のための3楽章「トリプティーク」
・團伊玖磨:管弦楽幻想曲「飛天繚乱」
・黛敏郎:饗宴
休憩
・千住明:オペラ「滝の白糸」から序曲と第3幕(原作/泉鏡花、台本/黛まどか)(演奏会形式)

後半は、2014年に作曲され、15年に改訂された、泉鏡花の「義血侠血」を原作とする千住明のオペラ「滝の白糸」から序曲及び第3幕全曲。その音楽は、ほとんど映画音楽の如しで、序曲からとてもとっつきやすく美しい。あまりの旋律の甘美さに、はじめは逆に白けてしまいそうな気もしたが、思わず最後まで聴き入ってしまったのは、その物語の力であり、巧妙に構成された黛まどかの台本の力によるだろう。
この、白糸の告白を軸にした最後の幕は手に汗握る心情吐露の場であり、千住の愛情漲る音楽あってこそ。特に、ラストの白糸と欣弥の二重唱のエネルギーは凄まじかった。

あなたなしには生きられぬ、私だから。

ところで、終演後、大友の手招きにより観客席から作曲者が舞台に呼び上げられたが、こういうシーンを見ることができるのはまさに現代に作曲された作品であるがゆえの恩恵。音楽を、たった今生まれた音楽を享受できることの掛けがえのなさよ。

 

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