クレーメル&ドホナーニ指揮ウィーン・フィルのグラス協奏曲(1992.2録音)ほかを聴いて思ふ

現代の音楽を奏するときのギドン・クレーメルには、他のどんな作品を演奏するときよりも一層の愛情のような繊細で甘い音調が醸されるのは気のせいだろうか。先日の、ヴァインベルクの協奏曲のときにも、僕は、同時代を生きるがゆえの気迫と厳しさと同時に柔らかさと優しさを彼の演奏に感じた。

クレーメルの弾くフィリップ・グラスの協奏曲についても、僕は同様の愛を思う。
いつ果てるとも知らぬ哀愁溢れるヴァイオリンの旋律が、管弦楽の静かな伴奏に乗ってうねる。彼の高音は本当に美しい。

ロバート・メイプルソープが撮影したポートレイトをジャケットにしたパティ・スミスの”Horses”の、レコーディングから40余年を経ても輝かんばかりの緊張感と集中力に舌を巻く。長年聴き込んだ録音は、幾度聴いても常に新しい発見をもたらす。
冒頭”Gloria”に戦慄し、3部構成の9分半を要する”Land”の強烈なエネルギーに灼熱を思う。何という暗いパッション!(ちなみに、1996年のリマスター盤に収録された”My Generation”も、The Whoのオリジナルを超えるパワーが炸裂、何よりパティ・スミスの絶叫によって会場は興奮の坩堝と化す。最後にパティは”We created it, let’s take it over!!”と叫ぶのだ)

・フィリップ・グラス:ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲(1987)(1992.2録音)
・アルフレート・シュニトケ:合奏協奏曲第5番―ヴァイオリンと舞台裏に隠されたピアノ、オーケストラのための―(1990-91)(1991.11録音)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ライナー・コイシュニッヒ(ピアノ)
クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

3つの楽章に一貫するパルスが僕たちの深層にまで響く。例えば、第2楽章の安寧と終楽章の熱い血の柔らかい奔流!!

また、カーネギーホールの委嘱により作曲されたシュニトケの合奏協奏曲は、クレーメルの鋼のように研ぎ澄まされたヴァイオリンの音に思わず釘付けになる。例えば、第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェには、ショスタコーヴィチのようなアイロニカルな音楽が刻印され、アタッカで奏される終楽章レントの暗澹たる音調は、透明なヴァイオリンの音とあわせて内なる魂の崇高な光輝を示すようで実に美しい。コーダは、まるでショスタコーヴィチの交響曲第4番終楽章の終結と双子のよう。

・Patti Smith:Horses (1975)

Personnel
Patti Smith (vocals, guitar)
Jay Dee Daugherty (drums, consultant)
Lenny Kaye (guitar, bass guitar, vocals)
Ivan Kral (bass guitar, guitar, vocals)
Richard Sohl (keyboards)

元ヴェルヴェッツのジョン・ケイルをプロデューサーに迎えて制作された”Horses”の、時代を先取りする先見。

“No, Daddy, don’t leave me here alone
Take me up, Daddy, to the belly of your ship
Let the ship slide open and I’ll go inside of it
Where you are not human, you are not human”

僕は、名曲“Birdland”でのスミスの、実に感情のこもった語り口調に痺れる。

ところで、昨年6月、フィリップ・グラス(ピアノ)とパティ・スミス(ヴォーカル&ギター)が揃って来日し、「アレン・ギンズバーグへのオマージュ」と題する公演をすみだで開催したのだが、僕は所用のため足を運ぶことができなかった。
グラスの曲に乗せてギンズバーグの詩を70歳(!)のスミスが朗読するという希少な舞台。
想像してさえ興奮の極み。今さらながら実に無念。

 

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